「物事の真理を解き明かしたい」という思いを胸に、世界一の研究を目指す

理科ぎらいだった少年を変えたのは1冊の本との出会いだった。
真理を探究する研究者たちの人間味あふれる姿に共感し、研究者の道へ。
競争が激しい研究者の世界で、
過去の偉大な研究者や海外留学で出会った研究者たちがどのように振る舞い、
どのように研究テーマを見つけ、研究を続けてきたかを見聞したことが、
今も、渡邉さんの人生に大いに役立っているという。

Profile

渡邉 紳一 / Shinichi Watanabe

物理学科

1974 年東京都生まれ。1997 年東京大学理学部物理学科卒業。1999 年東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(東京大学物性研究所秋山研究室)。2002 年同大学院理学系研究科博士課程修了(東京大学物性研究所秋山研究室)。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員、日本学術振興会海外特別研究員、スイス連邦工科大学ポスドク研究員、東京大学理学部物理学科助手(島野研究室)、同助教を経て、2011 年より現職。

1冊の本に出会い物理学に興味をもつ

どんな幼少期を過ごされたのですか?

東京都中野区にて、電気工事業を営む両親の長男として生まれました。実家が電気屋だったため、ワープロやパソコンなどが身近にある子供時代を送り、早くからコンピュータ・プログラミングなどに興味をもちました。父は朝遅く仕事に出て夕方には帰ってくる生活で、夜はほとんど家にいたので、昔から、父のように自由に時間が使える仕事につきたいと思っていました。

勉強はお好きでしたか?

高校時代までは数学と世界史が好きでしたが、理科は苦手でした。理科というのは、複雑で多様性のある自然現象を相手にするため未解明のこともあり、数学のように厳密な理屈が成立しないことが多く、教科書の説明にどこか「ごまかし」を感じていたためです。丸暗記しなければいけない部分もあって、無味乾燥に思えたんですね。当時、予備校の先生にその疑問をぶつけたところ、「なぜかと聞かれてもわからない。実験でそうなるので認めるところから物理は始まるんだ」といわれたことを覚えています。
ところが、高校3年生の時に近所の図書館で、『X線からクォークまで』という本を借りて読んで以来、物理が好きになりました。これは、複雑に見える自然現象を相手に個性的な物理学者達がぶつかり合いながら、どのようにして20世紀を代表する学問である「量子力学」という美しい学問体系ができたかを躍動的に描いた本です。登場する物理学者がみな個性的できわめて人間臭く、こういう人たちと友達になって一緒に仕事をしたいと思いました。また、複雑でわからない自然現象を相手にするからこそ、自分の個性を発揮して自分のアイデアで活躍することができるということを理解しました。

できるだけ独自の道を進むよう心がける

で、東京大学に入学された後は、3年から物理学科に進学されたわけですね。

ええ。まわりにとても優秀な人たちが多くて、ともに勉強できることに幸せを感じていました。一方で、自分がこの世界でプロとして生き残るためには、優秀な友人と同じことをしていてはダメだ、とつねに感じていました。
そこで大学院では、多くの人が素粒子や宇宙物理を専攻するなかで、私はデバイス物理を研究しようと、今は柏にある東大の物性研究所に進学しました。さらに、ポスドクはスイス連邦工科大学に留学するといった具合で、できるだけ独自の道を進むようにしてきました。幸い、私の興味のある分野がレーザー光を用いた物質科学研究だったので、世界のどこででも活躍できる土壌がありました。
じつは学科を選択する際に「物理学科」にするか「応用物理学科」にするかで迷ったんですね。というのは、「実社会への応用に根ざした学問に進みたい」と感じていたからです。しかし「根源を知りたい」という思いもあったので、あれこれ迷ったあと、最終的には物理学科に進学することにしました。そうした中で、「光学」と出会いました。特に光の波動性を活用したホログラフィーの発明によりノーベル物理学賞を受賞したガボール(Dennis Gabor)の研究に触れ、自分もこういう研究者になりたいという思いから、光科学に進むことにしました。
物性研究所では、秋山英文先生のもとで半導体レーザー構造の基礎物理について研究しました。大学院時代に培った「ものをじっくり考える力」は現在も役立っており、秋山先生にはたいへん感謝しています。
スイスに行ったのは、計測だけでなく、「ものづくり」も学ばなければならないと考えたためです。カポン(Eli Kapon)先生のもとで、半導体量子デバイス構造作製の仕事に携わりました。世界最高品質の量子ドットの作製に携わることができ、世界各国の個性的なポスドク仲間と一緒に研究できたことは楽しい思い出です。海外へ出たことで、外国人とのコミュニケーションに恐怖心を感じなくなったことも大きな収穫でした(笑)。とくに海外では、自己主張をすることが大事だということを学びました。
その後は助教として東京大学大学院の島野亮先生の研究室で、現在の研究につながる「テラヘルツ電磁波を用いた物性研究」を手掛けました。当時はまだ新しい研究分野で手探りの状況でしたが、そのおかげでさまざまな計測技術の基礎を学びながら、世界に類を見ない計測装置を開発することができました。
こうした経験から、「光計測」と「サンプル作製」の両方において、世界一の技術をもつ研究室で経験を積むことができたというのが、私の研究者としての大きな強みになっています。

研究者として進む方向を決め、研究テーマを探すというのは容易ではありませんね。

研究者の世界は競争が激しいため、今でも、どうすれば生き残れるかを必死に考えています。そういう意味で、「今はやり」といわれている研究はやりたくない。「はやり」に飛びつくと、結局、自分がこの世界で何を残したのか不明確になってしまいます。もっとも、「テラヘルツ光」は「はやり」の分野なので矛盾しますが、自分なりの切り口でオリジナルな研究をしているつもりです。一方で、自分の興味に走りすぎて、まったく「はやり」ではない分野に進んでしまうと研究資金を集めるのが大変になったりもしますので、このあたりの「さじ加減」にはいつも苦心しています。
ちなみに、慶應義塾大学物理学科の4年生の必修科目に「論文講読発表」という、古今東西の英語原著論文を読んで解説するという授業があります。その中で過去の有名な研究者がどういう戦略で自分の学問領域を切り拓いてきたのかを、学生と一緒に学んでいます。研究に必要な「新しい発想」を生むためには、過去の人間の努力の足跡を学ぶことが一番の近道です。過去の偉人の戦略に学び、世界中の人をあっと驚かせる研究成果を出せるように日々努力しているところです。

研究者として進む方向を決め、研究テーマを探すというのは容易ではありませんね。

研究者の世界は競争が激しいため、今でも、どうすれば生き残れるかを必死に考えています。そういう意味で、「今はやり」といわれている研究はやりたくない。「はやり」に飛びつくと、結局、自分がこの世界で何を残したのか不明確になってしまいます。もっとも、「テラヘルツ光」は「はやり」の分野なので矛盾しますが、自分なりの切り口でオリジナルな研究をしているつもりです。一方で、自分の興味に走りすぎて、まったく「はやり」ではない分野に進んでしまうと研究資金を集めるのが大変になったりもしますので、このあたりの「さじ加減」にはいつも苦心しています。
ちなみに、慶應義塾大学物理学科の4年生の必修科目に「論文講読発表」という、古今東西の英語原著論文を読んで解説するという授業があります。その中で過去の有名な研究者がどういう戦略で自分の学問領域を切り拓いてきたのかを、学生と一緒に学んでいます。研究に必要な「新しい発想」を生むためには、過去の人間の努力の足跡を学ぶことが一番の近道です。過去の偉人の戦略に学び、世界中の人をあっと驚かせる研究成果を出せるように日々努力しているところです。

自分たちにしかできない実験技術で
未解明の真理を見つけたい

今後はどのような研究をしていきたいですか?

高温超伝導の起源や生命の謎など、今現在では、さまざまな説が提唱されている問題も、何十年後かには人類にとって当たり前の知識になっている可能性が高いと思います。その時には、なぜそうなのかという、実験を裏付ける理屈が見出されていることでしょう。その理屈がわかりやすいものほど、人類にとって利用しやすく、社会に貢献することになります。
私は、自然現象というのは一見複雑に見えても、問題をばらしていけばシンプルなものになるはずだと思っています。その「わかりやすい理屈」を世界で最初に解き明かしたいですね。
未解明の真理を見つけるためには、自分たちにしかできない実験技術を磨くのが一番です。実験結果には、自然現象を解き明かすさまざまなヒントが詰まっていますから…。ヒントをもとにパズルを解いていくのは、とても楽しい作業です。
実際に私は、以前に、当時としては世界最高の電場クラスのテラヘルツ光パルスをつくり、これを用いて誰も行ったことがない物質の光制御に取り組みました。また、慶應義塾大学に着任した後は、テラヘルツ周波数領域の光の偏光情報を、速く正確に調べる世界トップクラスの技術を手に入れました。これからも、世界一の技術を使って未知の物理問題を解決していきたいですね。

研究の合間はどんなふうに過ごされているのですか?

中学時代から現在まで、アマチュアの吹奏楽団に参加してチューバを吹いています。
ちなみに、好きな曲の多くは行進曲(マーチ)です。チューバは単調なテンポしか刻まないので、よく人からは「つまらないでしょ?」と言われますが、むしろ単純なのに感動的な曲が多いということが面白い。研究と一緒で、わかりやすいものが好きなんですね。

慶應義塾大学のどんなところに良さを感じますか?

先生方や事務の方々が、私のような若手・中堅研究者をつねにバックアップして積極的に売り出してくださることに、いつも感謝しています。着任したときの第一印象は、とにかく効率的な運営をして、教育も研究も、みんなで協力して最高の成果を上げていこうという意識が非常に強いことでした。とても働きやすい環境です。
また、充実した教育環境のせいか、学生さんの基礎学力および学習意欲が極めて高く、一緒に勉強や研究をするのがとても楽しい。教職員と学生の協力による相乗効果で、質の高い研究ができる環境が整っていると思います。

 

どうもありがとうございました。

 

 
◎ちょっと一言◎

学生さんから
●IT機器の修理サポートのアルバイトがきっかけで、ネットワークの知識を深めたいと思うようになって、金子先生の研究室を選びました。私たちの世代は、インターネットはつながって当たり前ですが、インターネットが機能する理由を1つずつ理解することが大事だなと思います。先生からは、世の中の課題を見つけ、解決策を考える姿勢を学んでいます。一方で、学生のプライベートも気にかけてくださる、気さくな先生です。

ナビゲーションの始まり