勉強もスポーツも趣味も、全力投球でぶつかってきた結果が今につながっている

町の電器屋さんの長男として、
幼いころから電化製品やパソコンに慣れ親しんで育ったという青木さん。
一方で、学生時代は柔道やラグビー、バンドなど、部活動でも大活躍。
勉学にスポーツに趣味に全力で取り組み、研究でも多くの成果をあげてきた。
学生からも絶大の人気を誇る青木さんは、どのようにして研究者になったのだろうか。
その生い立ちと研究者人生について聞いた。

Profile

青木 義満 / Yoshimitsu Aoki

電気情報工学科

群馬県高崎市生まれ。1996 年早稲田大学理工学部応用物理学科卒業、2001 年早稲田大学大学院博士課程 理工学研究科物理学及応用物理学専攻修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部助手、芝浦工業大学工学部情報工学科助教授を経て、2008 年より慶應義塾大学理工学部電子工学科(現:電気情報工学科)准教授。2013年より株式会社イデアクエストの取締役を兼任し、慶應理工発画像センシング技術の医療分野での実用化を目指している。専門分野は知覚情報処理・知能ロボティクス、メディア情報学・データベース、計測工学、医用システムなど。

研究紹介

今回登場するのは、画像情報をセンシングして
幅広い分野へ活用する研究を進めている青木義満准教授です。

画像から有用な情報を得て社会に役立てたい

人・モノ・空間の情報から文脈を理解する

現在、デジタルカメラや防犯カメラなどの普及により、私たちの身の回りには画像や映像情報があふれている。ある意味、画像や映像は人や社会を知るうえでの重要なセンサの役割を果たしているとも言える。最先端の画像センシング技術を活用し、社会に役立つシステムの開発を目指す青木義満准教授に、研究室で取り組んでいるさまざまな先進技術について話を聞いた。

画像センシング技術により、“察しの良い” 知能化システムを実現したい

現在、電子工学科(現:電気情報工学科)の青木さんが手掛けているのは、デジタルカメラの画像やビデオカメラの映像をセンシングに活用しようという試みだ。画像や映像の中から意味のある情報を自動的に抽出し、社会に役立てたいという。
たとえば、人の顔の特徴を抽出し、自動でピントを合わせたり、自分の子どもの顔だけを認識してピントを合わせるといった機能は、すでにデジカメやビデオカメラで実用化されている。青木さんはさらに踏み込んで、画像からその人が何をしているのかという行動・状態の理解や、シーン全体の意味内容までもコンピュータに理解させようとしている。
「人だけでなく、モノの色や形、空間や環境の認識なども対象としています。つまり、画像から人・モノ・空間の 3つを認識することにより、シーン全体の理解をしようとしているのです。複数の情報を組み合わせることで、人が手を伸ばすという行為に対して、握手をしようとしているのか、モノをつかもうとしているのかの違いを識別し、そこで起こっていることのコンテクスト(文脈)を理解することができると考えています」と青木さんは語る。
いまや誰もがスマートフォンやタブレット端末を持ち歩き、気軽に写真や動画を撮影し、インターネットにアップする時代になった。また、街中には、至るところにカメラが設置されていて、人の目の代わりとして活用されている。こうして得られる映像をセンシングすることにより、複雑な事象を理解し、予測し、人間の感覚や感性、思考に似た知能化システムを実現したい、というのが青木さんの研究の動機だ。
しかしなぜ、画像なのだろうか─。「画像を活用するメリットは、広い範囲で複数の人を同時に計測できることにあります。また、通常のセンサのように身につける必要がなく、人の行動に制約を与えないことも大きな利点でしょう。
一方で、画像の活用はプライバシーの問題をはらんでいます。また、死角などで対象が映っていなければ使えません。さらに、動画は情報量が多いためリアルタイムに処理するのが難しい。ただ、これだけ社会に画像情報があふれるようになった現在、これらをうまく活用できないかという実社会からの要請がとても大きくなっているのも事実です」。

図 1 青木研の画像センシング技術
人を計測・認識対象としたさまざまなセンシング技術、物体や空間を対象とした画像計測・認識技術を基盤技術として、得られたセンシング結果を映像自動解析・シーン理解、感性情報の抽出、医療における診断支援システムなどに応用している。

さまざまな状況下で、人を検出・追跡し、行動を認識・理解する

なかでも青木さんが注力しているのが、映像の中の特定の個人を検出して追跡する、という技術だ。
「この技術を防犯カメラに応用すると、怪しい人を見つけ出したり、道に迷っている人を検出することができます。また、コンビニなどで、顧客がどんな商品に興味を持ったのかを認識でき、マーケティングにも応用可能です」。
また、サッカーやアメリカンフットボールの試合で、同じユニフォームを着た選手の中から、背番号の情報を頼りに1 人の選手の動きや位置、ボールの動きを検出するという、難易度の高い取り組みも行っている。こうした技術は、戦術理解やプレーの予測などに応用でき、実際にプロスポーツチームや TV 局、ゲームソフトメーカーからの引き合いも来ているという。
「ここでは、人の姿勢をモデル化して、たとえば頭から肩にかけての位置がどう変わるのかといった情報を事前にコンピュータに学習させるという方法を採用しています。その際に『主成分分析』という手法を使って、情報量を大幅に圧縮しているところがミソです」。
主成分分析とは、多次元のデータの情報量をできるだけ落とさずに、その特徴を少数の指標で表わす数学的な手法のこと。この手法を使うことで、少ない情報量から人の形の特徴を表現できるようになる。さらに、上半身から下半身に至る身体の連結モデルを構築することにより、リアルタイムかつロバスト(頑健)に人の動きや姿勢を追跡できるようになるという。
「この技術により、どの商品の前で前かがみになって手を伸ばそうとしたのかなど、姿勢の細かい情報を収集できるようになりました。さらに、これらの知見を応用することにより、人の正面と側面のわずか 2 枚の画像から、3 次元の体形を瞬時に復元するという画期的な技術の開発にも成功しました」。
このように、あくまでも少ない情報量で複雑な動きや形状を高速に処理し、実際のシステムに導入可能とするところが、青木さんの研究の優位性と言える。

図 2 映像情報からの人物行動認識の流れ
人の特徴を少ない情報量をもとにモデル化して事前知識として与え、映像中から得た特徴と確率的に比較することで、人らしい特徴を捉えた人物検出と追跡が可能となる。現在、店舗における購買行動分析、スポーツ戦術解析、生活行動の認識、さらには次の行動の予測など、さまざまな領域への応用が期待されている。

エンタメやファッション、医療などでの実用化を目指す

少ない情報量でリアルタイムに処理するという取り組みの先にあるのは、研究成果の実用化だ。青木さんは出口として、スポーツやエンターテインメント、アパレル、さらには医療、福祉などの分野での応用を視野に入れている。
医療への応用例として、赤ちゃんの呼吸不全の検知や、高齢者の嚥下能力(ものを飲み込む能力)の計測システムがある。前者は赤ちゃんの胸の上下のわずかな動きを、後者は高齢者の喉仏の動きを画像から計測するというもので、いずれも侵襲性がないことが利点だ。
さらにこうした物理的な計測だけでなく、人の感性を測る感性情報処理を手掛けている点も青木研究室の特色だろう。EC(electronic commerce =電子商取引)サイトにおいて、ユーザがクリックしたファッション・コーディネート画像群から、その人の服装の好みを推定し、個人の感性や嗜好に合った商品を推薦するのだという。
「私の研究室では 6 〜 7 割が企業との共同研究です。それだけ、画像センシングへの期待が高まってきているということでしょう」と青木さん。身近な技術であるだけに、その実用化に大いに期待が高まる。

(取材・構成 田井中麻都佳)

インタビュー

青木義満准教授に聞く

電化製品やパソコンに慣れ親しんで育つ

ご実家は群馬県高崎市の電器屋さんだったそうですね。

ええ、両親で店をやっていて、学校帰りには店に立ち寄ることがほとんどだったので、電化製品に囲まれて育った感じです。父はいわゆる「電気バカ」というのか、家でも電化製品のことばかり話すような人だったため、私も自然と電化製品に興味を持つようになりました。しかも父は新しいモノ好きで、当時、何百万円もするような出始めのプラズマテレビを店に置くような人でした。地元密着の電器屋とは言うものの、かなり時代の先端を行く店だったのではないでしょうか。
なかでも進んでいたのが、いち早くパソコンを扱い、2階のワンフロアをパソコンスペースとして開放し、各社のパソコンを並べて、ソフトも自由に使えるようにしていたこと。学校帰りに近所の小学生と一緒になって、『べーシックマガジン』を見ては、ゲームのプログラミングを打ち込んで遊んでいましたね。その頃から、自分は将来、理系に進むんだろうなぁと漠然と感じていました。
一方で、スポーツも大好きで、小学生時代はサッカーと水泳を、中学に入ってからは、悪い先輩にだまされて(笑)、バレーボール部に入部し、最終的には部長までやりました。いや本当に、入ってみたら不良ばかりでビックリしたんですよ。これがきっかけで、悪い奴らとの付き合い方を身につけた感じでしょうか(笑)。

高校は早稲田の付属に進学されたんですね。

実は、一瞬、早稲田大学本庄高等学院と慶應義塾志木高等学校のどちらにするか迷ったのですが、自分はどう考えてもバンカラの早稲田キャラだろうと思い、早稲田に進学したのです。だから、まさか今こうやって慶應義塾大学の先生をやることになるなんて、当時は夢にも思いませんでした。
高校では付属校ということで大学受験がないため、部活三昧の生活を送っていました。先輩と応援部を立ち上げたり、柔道部で活動したり、軽音楽部ではドラムをたたいたり。文化祭では3つもバンドを掛け持ちしたうえ、後夜祭では応援部のステージに出て、大忙しでしたね。ちなみに、バンドではフルメイクをして聖飢魔Ⅱのコピーバンドをやったことが印象に残っています(笑)。
そうは言っても、いちおう勉強もやっていましたよ。ちなみに高校の卒論のテーマは、「21世紀へ向けてのエネルギー:化石燃料代替エネルギーの必要性と太陽エネルギー」。当時は、21世紀初頭にはすでに石油は枯渇していると信じていましたからね(笑)。

迷ったものの大学の理工学部に進学

すんなり理系に進学されたのですか?

いやそれが、高3のときに大学の政経学部に行くか理工学部に行くか、少し迷ったのです。最終的には、初志貫徹で理工学部へ。理工学部の中でも、建築系への憧れもあったのですが、自分にはデザインセンスがなさそうだし、宇宙物理に憧れて、応用物理学科に進学しました。理論物理よりは、応用のほうが実用に近いだろうと、応用物理を選んだように思います。
とは言うものの、大学でもやはりスポーツに没頭することに……。理工ラグビー部に所属して、大学1〜2年は、練習、試合、飲み会に明け暮れる日々でした。ところが、2年生の9月に大けがをしてしまった。ラグビーは初心者でしたから、2年生になってようやく試合に出られるようになったのですが、その矢先、東大戦でタックルをして頸椎を骨折してしまったのです。第一頸椎の骨折だったのですが、第二頸椎より下だったら、半身不随になっているところでした。
入院生活は3カ月に及び、大学2年生の後期を棒に振ることになってしまいました。ギプスで首を動かないように固定していましたが、慣れてくると自由に病院を歩き回ることができるようになって、リハビリをかねてランニングマシンや筋トレマシンで運動をしていました。今から思えば、退院したときが人生で一番健康だったように思います(笑)。そんな状況のなかで、友人たちがノートを貸してくれたので、なんとか年明けのテストもクリアして、留年せずにすみました。
ちなみに、ラグビーは一度諦めたのですが、結局、3年生の途中から復帰して、4年生の最終戦では、ここ慶應の矢上グラウンドでロスタイムの逆転トライで慶應理工に勝利しました。いい思い出です。

早稲田を卒業、現在は慶應義塾大学で教鞭をとる

どういうきっかけで画像の研究に進まれたのですか?

ラグビーでの大けがもあって、理論物理系の科目を理解するのが難しいと感じていた大学3年生のときに、後に指導教員となる橋本周司先生の「計測原論」という講義を受けて、計測の奥深さを感じ、興味が一気に理学から工学へと移っていったのです。橋本研究室では顔画像処理やヒューマノイドロボットの研究などを行っており、応用物理学科のなかでは異色の研究室だったことも魅力でした。一方で、橋本先生の研究室はたいへん人気が高かったため、もし院試(大学院の入試)に落ちたら就職してもいいかなというくらいの軽い気持ちでもいました。ラグビー部の先輩たちの中には商社に就職した人も多かったですし、人と話したりお酒を飲んだりするのも好きで、体力には自信があったので、商社の営業マンになるのも悪くないかな、と思っていたのです。
結局、無事に院試に通り、大学院では顔画像認識・合成に関する研究に取り組みました。たとえば、受け口の歯科矯正の手術前と後の顔の見え方の変化や歯の噛み合わせを画像でシミュレーションして示すといった研究です。
この成果を日本顔学会で発表したところ、九州大学の歯学部の教授に興味をもっていただき、共同研究が始まりました。九大との共同研究は、ドクター論文、さらには芝浦工大に行ってからも続きました。早くからこうした共同研究や画像グループの学生の指導ができたことは、いい経験になりました。
その後、早稲田大学で博士を取得して助手まで務め、2002年に結婚とほぼ同時に芝浦工大情報工学科に専任講師として赴任しました。芝浦工大では、初年度から10名の学生を指導し、在籍した2007年度までに約80名の学生を指導しました。当初は大学院に行かない学生がほとんどでしたが、学内外の研究室との合同研究発表会を企画したり、研究費獲得のために共同研究を仕掛けたり、研究の体制づくりに奔走した結果、7割くらいが大学院に進学する研究室に育て上げることができました。ちなみに、合同研究発表会は現在も継続しています。

2008年度から慶應義塾大学にいらしたわけですが、いかがですか?

慶應と早稲田は同じ私学として切磋琢磨してきたせいか、共通点が多いですね。あえて違いを言うと、早稲田に比べると慶應のほうが、良くも悪くもきちんとしている印象があります。後輩を大事にするところはとてもいいですね。また制度も整っていて、そうした制度を活用してうちのドクターの学生5名中3名が海外留学を経験しています。

ご多忙ですが、息抜きはどうされているのですか?

小学校4年生の息子と年中の娘がともに柔道をやっていて、子どもたちにまざって、週に一度、私も柔道をしてストレスを発散しています。ちなみに、子どもの柔道の試合はすべてビデオで撮影して、映像編集、戦術解析をしているんですよ(笑)。いずれ、柔道をしているときに身体の重心がどこにあるか、画像で自動的に解析するような研究もやってみたいと思っているところです。

 

どうもありがとうございました。

 

 

◎ちょっと一言◎

学生さんから
●熱血漢で厳しい一面もありますが、つねに学生のことを真摯(しんし)に考えてくれる素晴らしい先生です。とくに僕たちが研究しやすいように、これ以上にない環境を整えてくださっています。先生ご自身もラグビーをされていましたが、『スクール☆ウォーズ』の滝沢先生そのものです(笑)。研究の楽しさ、厳しさ、さまざまなことを青木先生から学んでいます。

(取材・構成 田井中麻都佳)

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