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新しい科学技術、開放系の科学の胎動

情報と生命、生命と環境など、これまで考えられもしなかった概念の結びつきが、科学技術にとっていまだ探求されざる膨大なフロン ティアを拓こうとしています。周囲の環境と不断に情報や物質の交換が行われている系は 「オープン・システム(開放系)」と総称されますが、生命・コンピュータネットワーク・ 人間社会などは、いずれも異質かつ複雑な構成要素から成り立つ高次の開放系であると考 えられます。高次の開放系は、これまで科学技術がとり扱ってきた工学システムとは異なる多くの特徴を持っています。ここに新しい科学である「開放系科学」を提唱し、科学技術に飛躍的なブレイクスルーを起こすのが、 慶應義塾が世界にさきがけて「開放環境科学」という名の専攻を樹立する目的です。

本格的な知的社会基盤工学の必要性

たとえば地球環境問題、都市問題、エネルギー危機、パンデミック など、リアルタイムでその解決が迫られている課題の多くが、こう した開放系の問題です。いずれも情勢の変動が激しく、明確な境界条件や要求仕様を前もって定めることができず、従来型のモデル化 や最適化の適用が困難です。つまりは、従来の科学技術の方法論からの根本的な変革を迫る問題です。しかしながら、20世紀の科学技術は、こうした地球規模の諸課題について解決を先送りにしてきたと言えます。21世紀の科学技術には、情報技術を活用し、これら複雑現象を支配するキーファクターを抽出し、問題解決の糸口を 探ることが求められます。これにダイレクトに対応できる、いわば本格的な知的社会基盤工学とでも呼べる学問の確立を急ぎ、巨視的観点から取り組む全く新たな科学技術を具体化することが、開放環境科学専攻を設置するためのもう1つの大きな目的です。

急速に整いつつある開放系科学の研究環境

現在、こうした開放系の課題に取り組む研究環境が整いつつあります。たとえばコンピュータ・シミュレーション技術の発達です。真の世界では決して実験できない大規模な現象や一回性の現象について、コンピュータを使った可能世界(現実化していないが可能な世 界)で模擬実験することが可能となってきました。従来は無視され捨象されてきた不確定要素(変数)の多い膨大な演算も可能です。 さらには、人工生命、遺伝アルゴリズム、ニューラルネットワークなど、時々刻々の相互作用の変化に即応して、新しいシステムを自己組織化していくメカニズムの研究も盛んになっています。これらの探求を一層精力的に進めることによって、たとえば生命体あるい は人間社会について、21 世紀の科学的な理解と工学的な取り組みの可能性がさらに開かれるものと期待されます。

現実世界の課題解決に資する科学技術をめざして

開放系科学に関して私たちが現在手にしているのは、ジグソーパズルの限られたピースに過ぎません。したがって、パズルの完成、つまりオルタナティブとしての新しい科学的方法論の開発に取り組む必要があります。しかしもう一方では、完璧ではないにしても、いま手元にある材料で目前の課題の解決も急がねばなりません。このため開放環境科学専攻では、空間、都市、資源、エネルギー、環境、 情報ネットワーク、社会組織など、幅広い分野にわたって、現実世界の具体的な問題について考究する科目を設けています。さらに、 社会基盤システムの構築に資する新しい方法として、問題空間の探索、現象学的解析、ならびに自律性や不測の事態への適応能力などを具備するシステムのデザインに関する科目も設け、新たな学問的基盤の充実に注力します。

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