塾員来往に寄稿する機会をいただき、大変光栄に思います。推薦いただいた舟橋先生に感謝申し上げます。

私は大学では生物を情報の技術を使って研究するシステム生物学研究室にて学び、現在の職場では生物や医療分野の課題をAIなどの技術を使って解決するエンジニアとして働いています。研究内容と現在の仕事内容が近いこともあり、大学での学びが今の自分に活きていると感じています。 私の大学時代から今までを振り返ることで、今後の進路やキャリアを考えている方のヒントになれば幸いです。

<理工学部生命情報学科への進学>

将来の職種を考えた時に研究開発職に就きたいと漠然と考え、理工学部への進学を決め、化学が得意だからという単純な理由で化学科・応用化学科・生命情報学科が選択できる学門を選びました。大学で学ぶ内容は高校までの内容とは全く異なったため、学科を考えるための大きな材料となりました。最終的にミクロな化学よりももう少し視認できるスケールの生物を専門にしたいと考えて生命情報学科に進みました。

<大学生活>

サークルのNY遠征にて、Ryan Keberle氏との共演

大学生活の大半はビッグバンドジャズサークルの活動に注力していました。毎年の海外アーティスト招聘からNY遠征、全国大会2連覇などとても濃密な経験をすることができました。

そんな中でも学問にも妥協することなく取り組んだと思っています。中学の数学教師をしている母の影響で、私もキャリアの選択肢としていつか教師になることを考えていたため、理科と数学の教員免許を取得しました。1教科でも大変な教員免許を2教科も取得するのは難しいだろうと周囲からは言われましたが、やめるのはいつでもできるからと2教科を取り始め、なんとか2つとも取得することができました。

サークルのNY遠征にて、Maria Schneider氏によるクリニック

<研究室>

研究室に所属してからは研究が生活の中でかなりの比重を占め、研究テーマに関連した知識だけでなく課題に対する考え方や伝え方など今の仕事に活きるようなことをたくさん学ばせていただきました。研究テーマは発生過程において細胞の位置が制御される仕組みを物理シミュレーションによって解明するというものでした。一つ一つの実験で根拠を積み上げていって真実に辿り着くという感覚が楽しく、研究室のメンバーや先生方と妥協なく議論できる環境もありがたかったです。研究を卒論や修論としてまとめる作業はかなり骨が折れましたが、最終発表の場では自分の研究を胸を張って発表でき達成感がありました。

研究と並行して修士1年の頃から、現在働いているエルピクセルというベンチャー企業でインターンを始めました。会社を知ったきっかけは母が録画していたテレビで「あなたの研究に似たことをしている会社があるから見てみて」と。

研究内容を活かした職に就きたいとは思っていましたが具体的な職種が思い浮かんでいなかった私は会社の応募フォームから何度か連絡することでインターンに漕ぎつけ、その後正社員として働くことになりました。エルピクセルに出会い、入社したのはよくいう”ご縁”があったからだと感じます。

舟橋研の研究室

Winter Q-bioでのショートトーク

お世話になった舟橋研の方々

<現在>

現職では大手製薬企業をはじめとする様々な企業の課題を画像解析やAIを使って解決するAIエンジニアとして働いています。ライフサイエンスをはじめとする様々な分野では、データを目視で確認することがまだまだ多く、定量性や効率性に欠ける部分があります。研究者が研究に没頭できる環境づくりの一助になるべく、それぞれの課題にあった解析を提供しています。様々な分野の研究者・開発者の方々と協業して新しい発見や価値を生み出すことができることにやりがいを感じます。

<結び>

これまでの自分の選択を振り返ってみると、正解とは言えない選択をしてしまったなと思う出来事もあります。ですが、正解というのは捉え方次第でひっくり返るものだとも思っています。今は失敗したと思っている選択も将来は良い経験だったと言える日が来るかもしれません。

月並みではありますが、成功も失敗も、役に立つのかわからないような経験も、全てが今の自分を形作っています。チャンスをくれた家族、そして環境を作ってくださった先生・同僚、昔も今も楽しい時間を共にしてくれる友人・後輩にこの場を借りて厚く御礼を申し上げます。

これから大学に入学あるいは就職する皆様におかれましても、様々な挑戦をして自分の血肉となるような経験をたくさんして欲しいと思います。

プロフィール

本室 美貴子 (もとむろ みきこ)
(慶應義塾湘南藤沢高等部出身)

2017年3月
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 卒業

2019年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程 修了

2019年4月 -
エルピクセル株式会社

現在に至る

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