この度は塾員来往への寄稿という貴重な機会を頂きありがとうございます。

私は数理科学科および数理科学専修で6年間学び、現在は損害保険アクチュアリー(※1)として働いていますが、大学入学から現在までを振り返って紹介したいと思います。
(※1 確率や統計などの手法を用いて将来の不確実な事象の評価を行う、数理業務のプロフェッショナルのこと。)

数学嫌い!?

数理科学科出身者は小さい頃から「数学が好き」という人が多いのですが、私は高校までの数学はあまり好きではありませんでした。多くの公式は直感的な導出に留まる上に、練習問題も単なる式変形でしかないものが多く、無味乾燥で面白さを感じなかったからです。一方、物理や化学など、現実の現象を解明する勉強は好きでした。そのため当時の私は「現実世界への応用」を強く意識し、実のところ管理工学科を目指して理工学部の学門2(現:学門C)の門を叩きました。

そんなこんなで始まった大学生活では人生の転機が3つありましたので、順に紹介したいと思います。

①数学への目覚め

1つ目の転機は、大学1年の必修科目「数学A3・B3(現:3A・3B)」を履修したことです。後に指導教員となる井口達雄教授によるε-δ論法を用いた微分積分学の講義では、初めは高校とのレベル差に絶望感すら覚えましたが、これまで直感的理解に留まっていた各種定理が厳密に証明されることがとても興味深かったことを覚えています。この講義が数学の面白さに気付くキッカケとなり、入学前からとでは一転、抽象理論を扱う数理科学科への進学を決意したのでした。

試合前のスパイク練習

また、学生生活を語る上でバレーボールサークルの存在は欠かせません。週2回の練習に加え、土日は大会出場・応援、定期開催される合宿・イベントにほぼ全参加し、大学生活の多くをサークル活動に費やしていた気がします。

②幅広く学びたい!

とはいえ勉学を疎かにしたわけではなく、むしろ全力投球していました。2年次以降は選択科目が大半ですが、「せっかくなので幅広く学んでおきたい!」と思った私は、学科設置科目の大半を履修し、卒業条件138単位に対して192単位取得して卒業しました(笑)

数理科学科は3年次以降、専攻が2つに分かれますが(※2)私は数学専攻ながら統計学専攻の科目も数多く履修しました。振り返ると、このときに統計を食わず嫌いしていたらアクチュアリーとしてのキャリアパスは選んでいないはずなので、これが2つ目の転機といえます。何が人生を変えるかわからないものです。           (※2 2019年度より数理科学科の専攻分けは4年次に行われるように変更となった。)

ゼミでの発表の様子

4年次の研究室配属では迷わず井口研究室を選び、偏微分方程式を学びました。1000ページ近い英語テキストの内容を毎週2~3時間発表するゼミ形式で、英語にも数学にも苦戦したのは良い思い出です。

③アクチュアリーとの出会い

そして3つ目にして最大の転機は、山内恒人先生による「リスク数理」「保険数学」(アクチュアリー数学を学ぶ講義)です。当時はアクチュアリーという名前すら知らず、幅広く学びたい精神で履修したものですが、アクチュアリーの存在を知り、基礎理論を学べたことは現在の礎となりました。

学部卒業式の日、井口教授と記念撮影。
慶応工学会賞を受賞しました!

大学院進学、そして就職へ…

大学卒業後は大学院へ進学しました。大学院での研究テーマは、「特定条件下で水の波の性質を解き明かす」というやや物理寄りのもので、大学入学時に意識した「現実世界への応用」が叶う形となりました。

研究自体は面白かったものの、ここまで読んでわかるように、私は「深く狭く」より「浅く広く」学びたいタイプなので、大学院修了後は研究職や教職でなく金融業への就職を選びました(博士課程へ進むには数学力不足という事情も…)。

金融業界で就職活動を進める中、先輩アクチュアリーの話を聞く機会が多々あり、自身にも適正がありそうだと感じた私は、資格試験未受験ながらアクチュアリーを軸に就職先を探しました。4社からアクチュアリー採用の内定を頂きましたが、その中でも幅広いリスクを取り扱う損害保険に興味を持ったため、損害保険ジャパン株式会社へ入社しました。

入社後は、リスク管理部門や省庁出向を経て、現在は運用部門に所属し、収支管理・DX推進をはじめ幅広い業務に携わっています。アクチュアリー試験には入社3年目で無事全科目合格、その後は 証券アナリスト も取得しましたが、現在はアクチュアリーとアナリストとデータサイエンティストをミックスしたような立場で働いており、「浅く広く」がモットーの自分としては、手広い業務に日々楽しく挑んでいます。

また、社内のアクチュアリー育成にも一部携わっており、勉強会講師やテキスト作成などを担当していますが、演習科目・ゼミにおける発表やLaTeXの知識など大学時代の経験が、仕事面でも大いに役立っています。

ちなみに、社内には「損保ジャパン三田会」というものがあり、社会人になっても塾員の繋がりは広がっています!

おわりに

双子の息子たちと東京ディズニーランドにて

私は勉学もサークルも趣味もアルバイトも全力で楽しみつつ大学生活を満喫したと思っていますが、大学生活は何でも挑戦できる一方、あっという間に過ぎてしまう時間でもあります。皆さんも、人生に一度しかない貴重な大学生活を全力で楽しんでほしいと思います!

プロフィール

浜田 将真(はまだ しょうま)
(東京都立小石川高等学校 (現:東京都立小石川中等教育学校) 出身)

2012年3月
慶應義塾大学理工学部数理科学科 卒業

2014年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻前期博士課程(修士課程) 修了

2014年4月
損害保険ジャパン株式会社 入社

2019年10月
金融庁 出向

2021年10月
損害保険ジャパン株式会社 帰任

現在に至る

<受賞歴>
2011年度 慶應義塾大学「慶応工学会賞」 受賞

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