慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科から修士課程に進学し、卒業後の現在は日鉄ケミカル&マテリアル株式会社という会社で開発業務を行っております。執筆の依頼をいただいた時点で卒業後1年とまだ社会人として日が浅く、自身の社会人としての経歴にもとづいて何かを語ることは難しいと思っています。しかし、だからこそ比較的学生に近い目線で私の経験をお伝えすることができるとも考えており、学生の皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。

理工学部入学以前、ものづくりに関わって新しいものをつくりたいという気持ちから理工学部への進学を考えていたものの、何を学びどんな仕事をしたいといった具体的な将来像はありませんでした。そのため学門制について知った際、どの学門を選ぶべきか考えるのに苦労したことを記憶しています。とは言っても興味のある学門が見つからなかったわけではなく、逆に様々な学問分野に興味がありました。入学してからは電気・機械・建築・情報など多くの分野の講義を受講しましたが、勉強は嫌いではなかったので多くの講義を受けることは苦になりませんでした(成績は良くなかったですが)。くわえて私が進級したシステムデザイン工学科(SD)では、専門分野のみを極めるよりむしろ多分野の基盤知識を習得することが推奨されており、私は取れる講義ほとんどすべてを取っていました。こうしてみると勉強熱心にも見えますが、本音としては自身の将来の方向性が定まっていない中で一つの分野の勉強に専念したくないという気持ちがありました。当時SDへの進級を決めたのも「専門分野を1つに絞りたくない。いろいろ首を突っ込んでみたい。」程度の考えでした。ただ、今になって思い返してみると、SDにおける「異なる領域の基盤知識・技術を総合的に活用して新しい価値を作る」という考え方はそのまま現在の開発業務にもあてはまることであり、多分野の基盤知識を吸収する姿勢を身につけておいたのは正解でした。

修士1年時 沖縄にて

修士修了 恩師の大家先生と

学部4年生からは、先端材料や最適設計の研究を行っている大家研究室に配属となり、そこで炭素繊維複合材料(CFRP)の成形に関する研究テーマを希望しました。材料の分子構造から製品の大きさまでスケール幅が広く大変興味深いテーマで、理論・シミュレーション・実験など多面的に取り組みました。研究においてもいろいろなことを試してみたいという考えで様々な手法に手を出し、馴染みのなかった化学分野の文献をあさってみたり、最適化解析で挑戦と失敗を繰り返したりと苦労がありました。研究室では1つのテーマについて役割分担するのではなく、一人ですべて行う必要があるので大変でしたが、複合的な見方や様々なスキルが身につきました。研究の方向性が定まらず迷走することもありましたが、最終的に何とか形にすることができ、ICTPという塑性とその関連技術に関する分野で最も権威のある国際会議で研究発表する機会も得ることができました。苦労を共にした研究室の仲間達とは今でも毎年旅行に行く仲で、むしろ卒業後のほうが結束は強まったように感じます。

現在は、在学中の研究テーマの縁もあって炭素繊維関係の開発業務に携わっており、インフラや一般産業用途において炭素繊維の適用範囲を拡大させていくための仕事をしています。就活時に業種や会社の志望を決めたきっかけは建築分野での炭素繊維の適用拡大が期待されているのを知ったことで、自分には機械工学をメインとしながら建築分野の勉強もしてきた経歴があるので、両方にまたがる仕事ができると考えました。炭素繊維は従来の重工業分野以外にも適用範囲を広げており、機械工学だけでなく土木・建築を含む様々な分野の研究室が集まっているSDで学べたことは非常に役立っています。将来は全く新しいところに炭素繊維を適用させるような活躍がしたいと思っておりますが、今は毎日新しく学ぶことばかりで、良い意味で半分学生のような感覚で取り組んでおります。

就職後 工場所在地の姫路で

現在 共同研究先の学生さんと

在学中は選択肢を絞らないよう様々な勉強に手を出してみて、そのぶん将来の選択というものを後回しにしてきたようにも思います。それが良かったか悪かったかはわからないですが、結果的として身についた「なんでも勉強してみよう」という姿勢は現在も役に立っています。大学での活動や勉強が直接的に将来の仕事に結びついているという方は少数派だと思いますが、それでも大学で身についた物事に取り組む姿勢は卒業後の自身の姿勢にも結び付くものです。ですから学生のうちは大学の中でなにか楽しめることを見つけて一生懸命取り組むのが一番だと思います。慶應義塾大学はそのための場所や仲間を提供してくれる恵まれた環境です。

プロフィール

西野 晶拡(にしの あきひろ)
(駒場東邦高等学校 出身)

2016年3月
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 卒業

2018年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻修士課程 修了

2018年4月
新日鉄住金マテリアルズ株式会社 入社

2018年10月
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社(新日鉄住金マテリアルズと新日鉄住金化学が統合)

現在に至る

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