私は現在、ヤクルト本社中央研究所の研究員をしています。大学入学当初、私には明確な将来の目標はなく、大学生活の中でやりたいことを見つけながら進路を決定してきました。参考になるかはわかりませんが、自身の大学時代および社会人生活についてご紹介させて頂きます。

大学入学および学部時代

高校時代は国語が大の苦手で、物理や化学が好きだったので理系を選択しました。その流れで、慶應義塾大学理工学部の学門3を受験しました。学門3を選んだ理由は応用化学科への間口が広かったからです。といっても、応用化学科の具体的な志望理由はなく、化学を応用するといった漠然としたイメージに惹かれて選択しました。そのため、2年進級時の学科選択ではあっさり心変わりして、「生命情報学科」を選択しました。単純に生命科学により興味を持ったことと、同学科は当時新設されたばかりで第一期生になれるということで、気を引き締めて学業に取り組めそうだと考えたからです。概ね期待通りだったのですが、私は高校で生物を勉強していなかったので、基礎知識が不足していて講義についていくのにはかなり苦労しました。また、同学科で出会った友人は皆優秀で、大変なところに紛れ込んでしまったとしばらく思っていましたが、最終的には優れた仲間から良い刺激を受けながら楽しい学部生活を送ることができました。

研究室

研究室では佐藤智典先生のご指導を頂きました。研究テーマは、インフルエンザウイルスの感染予防を目的とし、同ウイルスの受容体に結合するペプチドを探索するというものでした。先輩に教わりながらではありましたが、自身で主体的に取り組む実験には、これまで経験したことのないやりがいや楽しさを感じました。その一方で、何度やっても良い結果が得られずに落ち込むことも多々ありました。挫けそうな状況を乗り切れたのは、適切な助言や愉快な冗談で支えてくれた先輩と、同じように奮闘し苦しみながら励ましあった同期のおかげであり、本当に感謝しています。苦しいことがあっても研究を好きでいられたことが、後の就職活動で研究職を志すきっかけになったと思っています。研究以外では、修士1年生のときに研究室対抗ソフトボール大会で優勝できたことが良い思い出となっています。野球部だった先輩をはじめとする経験者が多かったのが勝因ですが、私のような素人メンバーも朝練習で同先輩にしごかれたので、少しくらいは貢献したかもしれません。なお、同先輩が卒業した翌年は私がチームキャプテンを引き継いだのですが、あっけなく敗退してしまいました(笑)。それ以外にも、年に1度の研究室の夏合宿は毎年スポーツ合宿化し、夜はもちろん宴を満喫しました。このように、学業にレクリエーションに充実した研究室生活を過ごしました。

ソフトボール大会優勝チーム

研究室での夏合宿

修士論文発表を終えて同期と

社会人生活

入社後ベルギーの研究所にて

実験が好きだったことと、人の健康に関わる仕事がしたいという思いから研究職を目指して就職活動を行い、ヤクルト本社へ就職しました。入社後は中央研究所の基礎研究を行う研究室に配属されたのですが、微生物に関する知識はゼロに等しく、実験でも大腸菌以外は扱ったことがなかったので、一から勉強しました。そこで、人の腸には多種多様な細菌が相利共生 (ヒトと細菌の双方が利益を得る共生) の関係を築いていることや、培養することができない未知の細菌も多いことなどを知り、腸内細菌の研究の奥深さや面白さに引き込まれました。そして3年後、幸運にもベルギー王国のゲント市にある弊社研究所への赴任の話を頂き、海外で働くことを目標に英語の勉強も続けていたので、チャンスを逃すまいと挑戦することにしました。そこで4年間、欧州人を対象とした腸内細菌の研究に従事しました。異なる文化圏での研究生活は気付きの連続で、それは自分自身に関する発見にも繋がりました。例えば、日本人の典型かもしれませんが、自分の意見をはっきりと述べることが苦手である、プレゼンテーションに抑揚がなく淡々としている、英語のLとRの発音ができていない、などです。気付けたからといって簡単に改善できるものではありませんでしたが、自身の弱点を認識して心構えができた点は大きなプラスとなりました。また、仕事への取り組み方も、ベルギーの研究者の方がONとOFFをしっかりと切り替えていて、自身のプライベートの時間を大切にしていると感じました。この点については、現在は日本に戻って研究を続けていますが、以前よりもめりはりを付けて仕事に取り組めていますし、有給休暇も完全に消化しています。都合の良い部分はしっかり吸収したようです(笑)。入社して10年ほど経ちましたが、今でも研究は楽しく、日々勉強といった毎日を過ごしています。

最後に

改めて振り返ってみて、私は自分の進路を主に「好き/嫌い」の判断基準で決めてきたように思いました。大学生活の中で好きなことを見つけることができ、その仕事に就けたことは幸運でしたが、慶応義塾大学にはそれを可能にする環境が整っていたのだと思います。私のように将来の目標が定まってない人は、大学生活の中で是非さまざまなことに挑戦し、自分の好きなこと、やりたいことを見つけて頂きたいと思います。

プロフィール

久保田 博之(くぼた ひろゆき)
(駿台甲府高等学校 出身)

2005年3月
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 卒業

2007年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻 修士課程 修了

同年4月
株式会社ヤクルト本社 入社

現在に至る

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