このコラムのメインターゲットである高校生の皆様は、これからの進路の選択に非常に頭を悩ませているのではないでしょうか。

私は先のことに頭を悩ませることは億劫に感じる性分なので、「選択」は適当に済ませ、その選択を最大限正当化するよう頑張る派の人間です。悪く言えば思慮が浅く行き当たりばったり気味というところでしょうか。

こんな私の高校~社会人1年目までの経緯を紹介することで、少しでも悩める皆様の参考になれば幸いです。

数学が苦手だし・・・

高校時代の私は理系でありながら、数学に苦手意識を持っていました。そのため、生物系なら数学と関わらず生きていけそうという甘い考え、「これからはバイオの時代だ!」という世の中の風潮、そして、生命科学にある程度興味があったことから、生命科学を大々的に取り扱う「生命情報学科」への間口が広い、「学門3」を受験しました。

プログラミングとの出会い

学部2年時には受験当初の目的だった生命情報学科に無事配属が決定しました。生命科学に関する様々な授業や、DNA抽出、分子分析等を自らの手で行う生命科学実験はもちろん刺激的でしたが、それらよりも私の心を強く捕らえたものとして、「プログラミング」があります。生物や細胞を利用した実験で結果を出せるかどうかは、正確かつ的確な実験操作が必要なことは大前提として、経験から来る直感、周囲からの外乱、そして運など様々な要素に左右されます。また、実験結果を得るためにも多くの時間を要します。一方で、プログラムは基本的に自分が書いた通りにしか動かず、努力とつぎ込む時間次第でその質を確実に向上させられ、かつプログラムを実行すれば大抵即座に結果が得られる点に、非常に魅力を感じたのだと思います。

研究室

上記の出会いもあり、学部4年時の研究室選択の際には、プログラミングを利用した研究も可能な「システム生物学研究室」への配属を希望しました。研究室では国際学会でポスター発表を行ったり、学術誌に論文を掲載したりと、それなりの成果を挙げることは出来ました。しかし、学生の研究で重要なのは、「どんな成果を出したか」ではなく、「成果を出すためにどのようなプロセスを踏んだか」だと今になって思っています。社会では、多くの場合プロセスではなく、出した成果で人は評価されます。だからこそ、研究室は成果を自ら生み出すプロセスを学ぶための、貴重な「学びの場」であるということです。

また、研究室は学びの場であるだけでなく、夏にみんなで合宿(という名の旅行)に行ったり、発表お疲れ会と称して王将で餃子だけをひたすら食べたり、みんなでコスプレ(しかも女装)して変に盛り上がってみたりと、全力で「楽しむ場」でもありました。まだ出来て数年のフレッシュな研究室ですが、OB会も開催され、研究室の仲間同士の繋がりも大切にされています。

OB会終了後の一幕。みんないい顔をしております。写真真ん中の黒いパーカーを着た顔が白いのが私です。

なぜか伝統行事になった餃子会の一幕。一番数を多く食べた人(餃子王)はみんなに奢ってもらえます。餃子王になるためには50個程度食べる必要があります!

なんとかなった就職活動

たいていのことは「なんとかなる」という気持ちで生きてきた私ですが、就職率低迷が著しく、インターンはおろか、サークル、バイト経験すら無かったため、就職は全くもって「なんとかなる」感じがしていませんでした。ですが、蓋を開けてみると、無事ソニーへの就職が決定していました。面接では自己アピールをはじめ、様々な質問をされますが、研究開発系の職種では、大学での研究内容をプレゼンする機会も多々ありました。自己アピールは苦手な私でも、研究内容を説明することはお手の物でした。研究内容自体は、ソニーの事業内容に直接合致するものではありませんが、研究に対する取り組み方や、生き生きと説明をする様子が評価されたのだと考えています。

社会人1年目

入社時は情報系の研究所に配属されていましたが、入社後1~2週間で所属する課の活動が停止され、更に1ヶ月後には研究所自体の取り潰しが決定するという憂き目に合いました。現在は顧客価値に基づき新規事業立ち上げを行うための組織に所属していて、業務において大学で身につけた知識やスキルが直接活用される機会はそうありません。しかし、例えば顧客価値検証の段階においては、価値について仮説を立て、仮説検証に必要な実験計画を構築し、実験計画に基づき準備を行い、実験を実施して、結果を解析する、という研究とほぼ同様のプロセスをなぞります。ここでも大学時代の研究を通して培った、課題発見と解決への取り組み方が活きていると感じています。現組織の活動も、いつまで継続されるかは未知数です。そんな中でもワクワクを顧客に提供できる事業提案を成功させられるよう、また、このようなチャレンジングな組織での経験が、後に別の形でも活かせるよう努力していきたいと思います。

そしてこれから・・・

高校生、大学生、社会人と年を経るごとに、多くの場合は自ら「選択」できる幅は狭まり、機会も減り、進む方向、環境、やり方を外部から強制されることや、一度決定したことが容易に覆される事態も増えていくことだと思います(変化が激しい今の世の中では仕方のないことですが・・・)。そんな中で私も皆様も、置かれた現状の中で可能な限り良い手を打てるよう常に心がけ、強く生きていくための地力を養っていきたいものですね。

プロフィール

瀧沢 大夢(たきざわ ひろむ)
(群馬県立高崎高等学校普通科 出身)

2010年3月
慶應義塾大学理工学部生命情報学科 卒業

2012年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程 修了

2012年4月
ソニー株式会社 入社

現在に至る

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