今は夜10時過ぎ、外は薄暗くようやく日暮れです。この原稿を北緯55度の街、デンマークのコペンハーゲンで書いています。現在、在外研究ということで、医療診断機器の小型化に関する研究をデンマーク工科大学にて行っています。今回、後輩達へメッセージを、という依頼を受けましたので、私なりの慶應義塾大学での経験と現状について紹介したいと思います。これを読まれる皆さんが共感できるかは分かりませんが、あくまで一例として読んで頂ければと思います。

入学~日吉時代

何となく「メカってかっこいいかも」程度のイメージを胸に抱えた状態で理工学部学門4に入学しました。日吉時代(※)には、他の文系学部とキャンパスが同じなので、サークルや授業を通じて知り合った、色々な学部の人達との交流によって自分の見識を広げることができた点は非常に良かったと思います。そして学科選択の説明会や見学会のときには、当初設立後1年のシステムデザイン工学科が発していた「新学科で何か新しいことをやろう」という雰囲気に飲まれ、そのまま吸い込まれるようにシステムデザイン工学科を選びました。学年が進むにつれて、講義内容が徐々に机上から実社会に近づいているようで、日吉-矢上間の坂もそれほど気にならなかったです。

※編集注:理工学部では1,2学年を日吉キャンパスで、3,4学年を矢上キャンパスで学びます。両キャンパスの間は徒歩で約15分。

研究室時代

研究室選びに際して、当時は地球環境問題に興味があったため「やはりグローバルな環境問題を考えるためにはエネルギーについての洞察が必要だ!」との思いから、長島・長坂研究室を選びました。卒業研究テーマは蓄熱材料の物性計測で、研究室生活がスタートしました。細かな実験作業が多く、当初の予想とは少し違いましたが、自ら困難を乗り越えて物事を進めていく、というこれまでの授業や課題で要求されるものとは全く質の異なる創造的な脳の使い方や、先生や先輩方の「キレた思考回路 (良い意味ですよ) 」に感動しながら、日々仲間達と楽しい時を過ごすことができました。初めは学部卒業で企業へ就職しようと思っていたのですが、研究室生活が思いのほか楽しく(知的に)刺激的だったので、もう少しここにいたい、と思い、進学の道を選び、そのまま博士号取得に至りました。

国際会議での発表 (アメリカにて)

メリハリが大事!国際会議後の厳しい修行風景 (中国、 少林寺にて)

大学教員としての道

修士から博士課程へと進学する際に「将来何になろうか」ということを考えました。そのときに思い出したのが、研究室に入ったときに受けたカルチャーショックでした。自分も人に知的刺激を与えるような存在になりたい、という思いから大学教員を第一進路として考えるようになりました。そして卒業後、東京理科大学へ助手として赴任することになり、教員としての道を歩き始めたところです。教える立場ではありますが、授業や演習を通じて、様々な学生の受け取り方や反応を肌で感じて、逆にこちらが多くを教わっているような気がします。

デンマークでの生活

現在、日本から遠く離れた北欧の国、デンマークにいます。500万人強が九州ほどの面積に暮らす小さな国です。在外研究という形でデンマーク工科大学マイクロ・ナノテクノロジー学部に所属し、ここでは、フローサイトメトリーと呼ばれる、生化学や医療診断で用いられる微小粒子の分析装置に関する研究開発を行っています。簡便に使える小型装置が完成すれば、発展途上国などでの早期診断が可能になり、多くの人の命を救うことができる日が来る、と夢見ながら日々研究を行っています。ここでは、大学院生や研究者の半分以上が国外から来ており、様々な人と意見交換をしながら研究を進める過程は、時には難しくもありますが日々新しい発見があって楽しいです。そして、ものの考え方、人々の振る舞い、働き方、生き方などに北欧独自の持続可能なスタイルが見え隠れしている気がします。我々日本人が彼らの生活様式から学ぶところは大きいように思います。

デンマーク工科大学マイクロ・ナノテクノロジー学科 (DTU Nanotech) のオフィス棟外観

冬のオフィスからの眺め。ちなみに今年は50cmほど積もりました。

さいごに

私が大学時代を通じて学んだことのひとつに「セルフデザイン」があると考えています。高校時代までとは大きく異なり、授業やサークル、進路、人生設計など多様な選択肢が目の前に広がります。それらを前にして、自らの将来を設計して、実現するには何をすべきかを考え、できることから積極的に実行する…一見当たり前のようですが、実は難しく、そして重要だと思います。自分のデザインですから、例え思い通りにいかなくても、次(=将来)へつなげるように再度デザインすることが可能なので、フレキシブルな強みが生まれるのではないか、と個人的に思います…あれ、でもこのフレーズはどこかで聞いた気が…これが慶應義塾での教育の根源にある「独立自尊」なのかもしれません。授業ではっきりと学ぶわけではありませんが、その雰囲気が慶應義塾大学には充満しているので、入学してキャンパスに長時間浸っていることでじわじわと身に付く力なのかも知れません。受験生の皆さんも是非この雰囲気を味わってみてください。お勧めします。

長島・長坂研OB・OG会での写真 (2004年、 横浜マリンルージュ)

プロフィール

元祐 昌廣(もとすけ まさひろ)
(国立金沢大学附属高等学校 出身)

2001年3月
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 卒業

2003年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻修士課程 修了

2006年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻博士課程 修了

2006年4月
東京理科大学工学部機械工学科 助手(現助教)

2010年8月
デンマーク工科大学 マイクロ・ナノテクノロジー学部(在外研究)

ナビゲーションの始まり