脱細胞化肝臓骨格を用いた再生医工学の研究

研究者

システムデザイン工学科 須藤 亮 教授

連携先

医学部 外科学教室 一般・消化器外科
 北川 雄光 教授
 八木 洋 専任講師

研究の背景

肝臓移植は肝臓疾患に対する有効な治療法ですが、ドナー不足の問題があるため移植できる肝臓の数は限られています。このような状況において、脱細胞化肝臓骨格を用いた肝臓の再生医療が期待されています。脱細胞化肝臓骨格とは、肝臓から細胞を取り除き、細胞外マトリックスとよばれるコラーゲンなどの繊維構造のみを残したもので、いわば肝臓の「抜け殻」のようなものです。この「抜け殻」にヒトの細胞を再充填することで、移植医療に応用可能な臓器を再生しようとする研究が行われています。将来的にヒトiPS細胞から作製した肝臓の細胞を脱細胞化肝臓骨格に充填し、臓器を再生できるようになれば、移植医療に応用することが期待されます。

研究の内容

本研究ではラットの脱細胞化肝臓骨格にヒト血管内皮細胞を充填し、ポンプをつなげて培養液を循環した状態で培養することによって、類洞とよばれる肝臓特異的な毛細血管のような非常に細いスケールの血管を構築することに成功しました。具体的には、培養液を循環させる流速として3種類の条件(2.4, 4.7, 9.4 ml/min)を検討し、4.7 ml/minの条件において最も血管形成が促進することを発見しました。また、この条件では血管内皮細胞が流れの方向に配向する様子も見られたことから、培養液を循環する際に生じるせん断応力の刺激が血管形成を促進している可能性が考えられます。さらに、脱細胞化臓器骨格をあらかじめフィブロネクチンとよばれるたんぱく質でコーティングしておくと、血管形成がさらに促進されることがわかりました。

これらの結果は、脱細胞化肝臓骨格の内部において機能的な血管網を構築するうえで重要な知見となります。特に、脱細胞化肝臓骨格を用いた臓器移植を行う際に問題となっている血栓形成や血液漏出に対して、本研究のように循環培養を行って機能的な血管網を構築することが重要となります。この研究をさらに進めることで脱細胞化肝臓骨格を用いた移植可能な臓器の作製や創薬研究に貢献することが期待されます。

書誌情報

論文

Construction of sinusoid-scale microvessels in perfusion culture of a decellularized liver

著者

Watanabe M
Yano K
Okawa K
Yamashita T
Tajima K
Sawada K
Yagi H
Kitagawa Y
Tanishita K
Sudo R

掲載誌

Acta Biomater. 95, 307-318, 2019

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