神経幹細胞を用いた組織工学の研究

研究者

システムデザイン工学科 須藤 亮 教授

連携先

ハーバード大学 医学部 Associate Professor
Prof. Ken Arai

研究の背景

神経血管ユニット(NVU: neurovascular unit)は脳組織における基本構造であり、ニューロン・グリア細胞・血管・細胞外基質から構成されています。このようなNVUのコンセプトがあることからもわかるように、脳機能を調べるためにはニューロン・グリア細胞・血管内皮細胞を含む三次元培養モデルを構築することが重要となります。しかし、これまでの研究では生体外においてNVUの三次元構造を再現するような培養モデルが実現されてきませんでした。そこで、本研究では生体外においてNVUを構築するにあたって重要なステップとなる、神経新生と血管新生を融合した組織の構築に取り組みました。特に、微細加工技術によってマイクロメートルスケールの小さな流路(マイクロ流体デバイス)を作製し、その中で神経新生と血管新生の三次元培養を組み合わせました。

研究の内容

この研究では、三次元培養に用いるゲルの組成として3種類の条件(フィブリンゲル、フィブリンゲルとマトリゲルの混合ゲル、フィブリンゲルとヒアルロン酸の混合ゲル)を用意し、神経新生および血管新生が最適化されるように調整しました。その結果、フィブリンゲルとマトリゲルの混合ゲルでは、ヒト神経幹細胞がニューロンに分化することや神経突起の伸長が促進されることを見出しました。特に、特定の濃度に調節することで三次元の神経ネットワークを構築することに成功しました。さらに、同様の混合ゲルを用いてヒト脳血管内皮細胞とヒト神経幹細胞を同時に培養し、毛細血管様の構造を構築することに成功しました。最終的に、ヒト神経幹細胞を用いた「神経系の培養」と、ヒト脳血管内皮細胞とヒト間葉系幹細胞を用いた「血管系の培養」を組み合わせ、培養条件を調節することによって三次元の神経血管組織を構築することに成功しました。

本研究ではマイクロ流体デバイスを用いてヒト細胞から構成される三次元の神経血管組織を構築することに成功しました。この培養モデルではヒトの脳組織を部分的に再現することができます。特に、顕微鏡下で神経新生や血管新生をモニタリングすることが可能であるため、このモデルを利用することで生体外において脳組織を構築するために必要なメカニズムを調べていくことが可能になります。特に、NVUを構成する細胞間の相互作用を明らかにしていくことで、最終的には生体内を模倣したNVUの三次元構造を再現し、脳機能や脳疾患のメカニズムを解明するために利用されることや創薬研究への応用が期待されます。

書誌情報

論文

Integration of neurogenesis and angiogenesis models
for constructing a neurovascular tissue

著者

Uwamori H
Higuchi T
Arai K
Sudo R

掲載誌

Sci Rep. 7(1), 17349, 2017

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