研究者 |
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連携先 |
医学部 先端医科学研究所 遺伝子制御研究部門 |
グリオブラストーマは、非常に悪性度の高い悪性脳腫瘍の一種です。グリオブラストーマは不均一な細胞集団を形成し、周囲の組織に浸潤することによって治療を難しくしていると考えられており、この浸潤メカニズムを明らかにすることが求められています。近年、がん細胞の浸潤には生化学的な因子だけでなく、間質流という物理的な因子も重要な影響を及ぼすことが明らかにされつつあります。しかし、グリオブラストーマの不均一な細胞集団の浸潤に間質流が及ぼす影響については、明らかになっていませんでした。そこで、本研究では、本学医学部で樹立されたグリオーマ幹細胞を理工学部で開発したマイクロ流体デバイスを用いて培養することで、グリオーマ幹細胞とその子孫細胞からなる不均一な細胞集団が間質流のもとでどのように浸潤するのかという点について調べました。
本研究ではマイクロ流体デバイスを用いてグリオーマ幹細胞を培養することで、三次元ゲルの内部をグリオーマ細胞が浸潤していくプロセスを観察しました。特に、静水圧によって三次元ゲルの内部を透過していく流れ(間質流)を起こした時の浸潤現象を定量的に解析しました。位相差顕微鏡による観察によって、グリオーマ幹細胞は分化誘導状態において間質流の下流方向に浸潤突起を伸ばし、浸潤距離も有意に増加することがわかりました。一方で、幹細胞状態では、間質流への応答が観察されませんでした。間質流によって誘起される浸潤メカニズムをさらに調べた結果、細胞と周囲の細胞外基質との接着に関連するタンパク質であるintegrin β1、focal adhesion kinase、リン酸化Srcなどの発現が間質流条件で増加していることがわかりました。さらに、Src阻害剤であるPP2を添加すると、間質流によって誘起される浸潤が有意に阻害されることを示しました。最後に、浸潤しているグリオーマ細胞の分化状態を調べたところ、nestin陽性の未分化な細胞が浸潤を先導しており、tubulin β3陽性の分化した細胞は後方から浸潤することが明らかになりました。
これらの結果は、間質流によって誘起されるグリオーマの浸潤を阻害する新しい治療戦略の立案において重要な知見となります。この研究をさらに進めることで間質流の効果に着目したメカノバイオロジー研究を基盤としたグリオーマの新しい治療法開発に貢献することが期待されます。
論文 |
Heterogeneous glioma cell invasion under interstitial flow depending on their differentiation status |
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著者 |
Namba N. |
掲載誌 |