Design of Hollow Protein Nanoparticles with Modifiable Interior and Exterior Surfaces

論文

Design of Hollow Protein Nanoparticles with Modifiable Interior and Exterior Surfaces

著者

Norifumi Kawakami, Hiroki Kondo, Yuki Matsuzawa,
Kaoru Hayasaka, Erika Nasu, Kenji Sasahara
Ryoichi Arai, Kenji Miyamoto

掲載誌

Angewandte Chemie International Edition

doi: 10.1002/anie.201805565

タンパク質の研究というと、その分子構造解析や細胞内での機能解明を通じて医療への応用や生命活動の理解を深める方向の研究を思い浮かべるかもしれません。しかし、高分子でありながら均一な構造を有するというタンパク質の特徴は、生物を離れた分子化学の視点からも大変魅力的な素材です。

我々は、天然に存在するタンパク質の構造が高い対称性を有していることに着目し、これを利用すれば、新しい形を持つ人工タンパク質超分子を設計できるのではないかと考え研究を進めてきました。対称性を利用することでどのような形ができるのかという幾何学的観点や、構造形成に関する検証実験が現実的であるか否かの観点に加え、どのような形ができればより美しいだろうかという感覚的な判断から、最終的に炭素材料で有名なフラーレンのような形を有する超分子を作ることに決めました。

一般的なフラーレンは炭素数60で構成されるサッカーボール形状で、5角形が12個、6角形が20個からなる多面体と捉えることができます。ここで重要なのは、幾何学的な性質上、5角形と6角形から構成される多面体は5角形の数が12で固定されるということです。実際、フラーレンは炭素数60のサッカーボール形状だけではなく、炭素数の異なるいくつものサイズバリエーションがありますが、基本的には5角形の数は12で、6角形の数だけが変化します。この性質から考えると、5角形の分子を12個使って、6角形を形成し、かつ、その6角形の数を20に固定できれば、炭素数60のフラーレンと同じ形状を有する超分子デザインが実現できるはずです。

そこで、5角形の5量体タンパク質を2量体タンパク質で接続できる、図1のような融合タンパク質をデザインすれば、自己組織化によりフラーレン形状のタンパク質超分子が形成できるのではないかと考えました。鋳型タンパク質は、DNA/RNAと結合する5角形のLSmタンパク質と、それを接続するMyoXと呼ばれるタンパク質の部分構造で、これらを遺伝子上で融合することにしました。これらの鋳型は、天然の機能というよりも形状がデザイン上理想的であったという理由で選択しています。実際に融合したタンパク質は、容易に精製することができ、電子顕微鏡観察や、小角X線散乱など複数の分析からデザイン通りに組み上がったことが示唆される結果が得られました。我々は、この人工タンパク質がフラーレンの多面体名称である切頂20面体型で60分子のタンパク質が会合して形成される(Truncated Icosahedral Protein composed of 60-mer fusion proteins)ことから、TIP60と命名しました。

図1 TIP60の設計と構築に関する模式図

図1 TIP60の設計と構築に関する模式図

TIP60は模式図通りに表面が多孔質性を示すことも推定されており、外部から添加した化合物も小分子であれば、そのまま内部に導入できることもわかりました。具体的にはTIP60の内部に導入した60箇所のシステイン残基を対象としてマレイミド化合物による化学修飾が実現できており、カプセル内部にも関わらず80–90%のシステインが修飾できることを発表しています。これは、薬物輸送のカプセルなどに応用が期待できる性質です。さらに現在は、小分子ではなく、別のタンパク質を閉じ込める手法の開発を進めており、TIP60をタンパク質保護剤として利用する方向も検討しています。その目的の一つは、タンパク質立体構造の決定に利用されるクライオ電子顕微鏡観察への応用です。クライオ電子顕微鏡観察ではどうしても観察試料の調製時に構造観察対象のタンパク質が変性する可能性がありますので、これを防ぐ保護剤として使うことができれば、様々なタンパク質の構造解析を加速することができないかと考えています。

内部空間の利用に加えて、TIP60の分子表面を利用した機能化も検討しています。本論文では、TIP60が負電荷を持つ粒子として振る舞う性質を利用して、正電荷を有するタンパク質と会合体を形成できることも報告しました。その相互作用のルールも徐々に明らかになってきていることから、TIP60自体をbuilding blockとして利用することで、新たな分子材料の創出が期待されます。

(蛋白質科学会アーカイブにも関連するエッセイを寄稿しておりますので、よろしければ併せてご覧ください[1]。また、本論文はChem-Stationでも取り上げていただいております[2]。)

関連する解説など

[1] 天然蛋白質の対称性と幾何学的性質に基づく単一構造蛋白質超分子の設計
http://www.pssj.jp/archives/essay/Es_06/Es_06.html

[2]サッカーボール型タンパク質ナノ粒子TIP60の設計と構築
https://www.chem-station.com/blog/2018/10/football.html

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