Simulation of high-speed droplet impact against a dry/wet rigid wall for understanding the mechanism of liquid jet cleaning

論文

Simulation of high-speed droplet impact against
a dry/wet rigid wall for understanding the mechanism of liquid jet cleaning

著者

Tomoki Kondo, Keita Ando

掲載誌

Physics of Fluids

DOI: 10.1063/1.5079282

液体ジェット洗浄のメカニズム解明を目指して

液体ジェット洗浄に代表される流体力に基づく物理洗浄技術は、産業界の各種製造プロセス(例えば半導体ウエハーの洗浄)において欠かせないものです。近年では、環境負荷低減の観点から、有害な化学薬品に頼らず水力学的作用のみで洗浄することが好まれるようになりました。しかしながら、純水のみで洗浄面に付着する汚れを洗い落とすことは簡単なことではありません。例えば、皿洗いを想像してみてください。油のこびり付いた皿に蛇口の水を当てただけでは、油汚れはなかなか取れません。油汚れを効率的に除去するために、皿洗いには洗剤(界面活性剤)を含んだスポンジを使用します。ここでは、洗剤添加により油汚れの付着力を化学的に弱め[1]、スポンジの摩擦力により付着油を取り除く、ということをしています。そこで我々は、環境に優しい物理洗浄技術として(洗剤の化学的作用に頼らない)液体ジェット洗浄に着目し、その洗浄メカニズムの解明に取り組みました。

我々の研究では、液体ジェット洗浄の問題を、液滴の濡れ剛体壁への高速衝突(模式図参照)とモデル化し、流体力学シミュレーションを行いました。液滴の衝突後、壁面(洗浄面)に沿う方向に液流れが誘起され、壁面上には(速度勾配を有する)せん断流れ(shear flow)が形成されます。ここから、洗浄面に付着するコンタミ粒子に粘性摩擦力が作用することにより洗浄力が生まれると解釈できます。洗浄力を高めるためには、液滴の衝突速度を上昇させ、速度勾配がより急峻な強い壁面せん断流れを形成する必要があります。一方、液滴衝突の高速化に伴い、水撃現象(water hammer)が顕在化し、衝撃圧による洗浄面のエロージョンを引き起こす恐れが出てきます[2]。すなわち、「洗浄力の向上」と「洗浄面のエロージョン回避」にはトレードオフの関係があり、洗浄条件の最適化を模索する上で、この両者の関係を定量評価することは重要と言えます。

液滴の高速衝突は、上述した通り、流体の「粘性(摩擦力の程度を表す指標)」と「圧縮性(水撃に伴う密度変化の程度を表す指標)」の両者が重要な役割を果たす現象であり、流体力学的にチャレンジングな問題と言えます。我々の論文の中では、粘性と圧縮性の両者を考慮した流体の運動方程式であるナビエ・ストークス方程式(※1)をシミュレーション手法[3]に基づき数値的に解くことで、現象解明に努めました。そのシミュレーション結果の一例を図に示します。液滴衝突後、液膜に覆われた剛体壁上に現れるせん断応力(単位面積当たりの摩擦力)の経時変化を表しており、衝突点近傍に強いせん断応力が発現することが確認できます。液滴の衝突速度および液膜厚さをパラメータとしたシミュレーションを複数行うことで、水撃圧および壁面せん断応力に対する洗浄条件の影響を定量評価することが可能となります。本シミュレーションにより取得されるせん断応力のデータとコンタミ粒子の付着力(例えばファンデルワールス力)を関連付けることで、洗浄の有無を判断することもできます。

このように、流体力学シミュレーションを用いることで、(実験的に取得困難である)流れ場の時空間発展を手に入れることができます。液体ジェット洗浄に代表される流体物理洗浄は、産業界において極めて重要な技術であるにもかかわらず、その技術的発展がなかなか実現しない一因として、流体力学現象に対する根本的理解の欠如している点が挙げられます。流体力学シミュレーションに基づく現象理解は、流体物理洗浄の技術革新のためには不可欠と言えるではないでしょうか。

用語説明

※1 ナビエ・ストークス方程式:ニュートン流体の運動を記述する非線形の偏微分方程式。厳密解が限られており、その求解のためにはシミュレーションに頼る必要がある。空気、水、油など身の回りにある多くの気体、液体はニュートン流体(摩擦力と速度勾配に正比例の関係がある)としてモデル化される。

参考文献

[1] 寺坂宏一、氷室昭三、安藤景太、秦隆史、ファインバブル入門、日刊工業新聞社(2016)
[2] T. Kondo and K. Ando, “One-way-coupling simulation of cavitation accompanied by high-speed droplet impact,” Physics of Fluids, Vol. 28, 033303 (2016).
[3] V. Coralic and T. Colonius, “Finite-volume WENO scheme for viscous compressible multicomponent flows,” Journal of Computational Physics, Vol. 274, pp. 95-121 (2014).

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