Visualization and Quantitative Detection of Friction Force by Self-Organized Organic Layered Composites

論文

Visualization and Quantitative Detection of Friction Force
by Self-Organized Organic Layered Composites

著者

Hideto Terada; Hiroaki Imai; Yuya Oaki

掲載誌

Advanced Materials, 2018, in press.
doi: 10.1002/adma.201801121

熱や機械的ストレスなど、様々な外部刺激を可視・定量化できる(見える、測れる)材料は、安心・安全な社会を実現する上で重要です。本論文では、層状構造を有する有機高分子材料を設計し、紙上にコーティングすることで「まさつ力」を色変化で可視・定量化できることを報告しました(図参照)。

一般に「高分子」といえば絡み合った「ひも」に例えられ、「線状につながった有機分子」を思い浮かべます。このような有機高分子を精密に設計して合成すること、それらを巧みに操る・集積させることが盛んに研究されています。我々は、これとは若干異なるかたちを持った高分子材料に着目した研究を行っています。具体的には、「2次元平面に広がった有機および無機高分子」と「ナノ~マクロスケールで形が制御された有機および無機高分子」を作製し、「材料」として電池や触媒などの環境・エネルギー関連分野、安心・安全に貢献するセンシング関連分野などへ応用することを目指しています。おおげさですが、「分子化学に立脚した高分子化学」ではなく、「材料化学に立脚した高分子材料」という位置づけで、新しい領域を開拓したいと考えています。

本論文では、層状の結晶構造を有するポリジアセチレンが外部刺激に応答して色変化する特性について、刺激応答性の精密な制御、紙基板デバイス化、これらを応用したまさつ力の可視・定量化を行いました。ポリジアセチレンは、熱などの外部刺激を受けると側鎖が動き、有効共役長が変化することで色が変わります。また、ジアセチレンモノマーは、ジアセチレン部位間の距離が0.5 nm以下であれば、結晶や分子集合体の中であっても分子の配置を大きく変化させることなく重合(トポケミカル重合)することが知られています。図に示すような両親媒性の構造を有するジアセチレンモノマーは、脂質二分子膜に類似した分子配列によって層状の結晶構造を形成します。一般的には、このジアセチレンモノマーの分子設計・合成を行うことで、刺激応答性の制御やその応用が検討されています。我々の研究では、この層状構造の層間に金属イオンや有機カチオンを導入(インターカレーション)した後にトポケミカル重合を行うと、導入したゲストの種類に応じた刺激応答性を有するポリジアセチレンが得られることがわかっていました。しかし、導入できるゲスト種の種類が限られていることや、基板上のデバイスとして作製しづらいこと、プロセスが多段階であることなどの問題点がありました。

本論文では、層状構造の層間にゲストを導入した複合構造を一段階で合成すること、さらにこれを紙基板上に均一に作製・デバイス化できる技術を開拓しました。前駆体溶液中にジアセチレンモノマーとゲスト分子を溶解させ、溶媒を蒸発させることで自己組織的に層状の複合体を粉末および様々な基板上へのコーティングとして得ることができました。これらをトポケミカル重合すると、様々な層間ゲストを含む層状ポリジアセチレンを合成することができます。紙基板上の層状ポリジアセチレンは、まさつを印加した回数に応じて色が徐々に変化することがわかりました。この色変化挙動は、導入したゲストの種類に応じて調節することが可能でした。さらに、まさつを印加した回数を一定とすると、まさつ力の強さに応じた色変化を示すことがわかりました。これらの結果は、まさつの「印加量」およびまさつ力の「強さ」を定量的に可視化できることを示しています。本技術を応用することで、色を用いて筆圧を定量的に評価することができました。筆圧は上肢の機能とも関連があり、これを特殊な装置を用いず簡便に測定できる意義は大きいと考えています。それ以外にも、本原理を応用し、まさつ力を可視・定量化できる技術は、材料の磨耗などの劣化診断や褥瘡(床ずれ)の兆候をとらえるなど、様々な場面に応用可能であると考えています。

刺激応答性材料は多くの研究がなされてきました。しかし、機械的(力学的)刺激に応答する材料の研究は多くありませんでした。近年、巨視的な力を微視的な分子の動きに結びつけ、色変化を起こす材料に関する研究が急速に発展してきました。しかし、これまでの研究は、分子集合体の構造相転移に基づく蛍光色の変化によるものであり、刺激応答性の調節、刺激の定量・可視化、励起光を用いない色変化は容易ではありませんでした。本研究は、これらを克服した新しい刺激応答性材料のプラットフォームの開発とその応用を提案するものであり、今後のさらなる応用展開が期待できます。

関連の参考文献

Yukiko Ishijima, Hiroaki Imai, *Yuya Oaki, “Tunable Mechano-responsive Color-Change Properties of Organic Layered Material by Intercalation”
Chem 2017, 3, 509–521.

Machi Takeuchi, Hiroaki Imai, *Yuya Oaki,“Real-Time Imaging of 2D and 3D Temperature Distribution: Coating of Metal-Ion-Intercalated Organic Layered Composites with Tunable Stimuli-Responsive Properties”
ACS Applied Materials & Interfaces 2017, 9, 16546–16552.

Mamoru Okaniwa, *Yuya Oaki, Hiroaki Imai, “Intercalation-Induced Tunable Stimuli-Responsive Color-Change Properties of Crystalline Organic Layered Compound”
Advanced Functional Materials 2016, 26, 3463.

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