Acquisition of a mental strategy to control a virtual tail via brain-computer interface

論文 Acquisition of a mental strategy to control a virtual tail via brain-computer interface
著者 A. Fujisawa, S. Kasuga, T. Suzuki, J. Ushiba.
掲載誌 Cognitive Neuroscience Vol. 26, pp. 1-14 (2018)
doi: 10.1080/17588928.2018.1426564.
生命情報学科 牛場 潤一 准教授

生命情報学科 牛場 潤一 准教授

私たちは、頭皮上からの非侵襲的な電位計測アルゴリズムを工夫することで、電極直下にある体性感覚運動皮質の興奮性変動を実時間で推定できることに気づきました。このことは、脳波-fMRI同時計測によって得られた脳情報の解析(Front Neuroeng 2017)や、運動皮質や末梢運動神経束へのインパルス電磁気刺激を用いた神経応答解析(Neuroscience 2015; J Neurophysiol 2013)によって科学的に裏付けられています。

こうした技術を使って体性感覚運動野の興奮性を非侵襲的にモニタリングし、そのレベルに応じてコンピュータ・グラフィックス、ロボティクス、神経筋電気刺激などを駆動する「ブレイン・マシン・インターフェース(Brain-Machine Interface; BMI)」はいま、世界で急速に開発が進んでいます。BMIが面白いのは、どうやったらBMIが動かせるのか全く分からないような状態からでも、ユーザーは試行錯誤を通じて操作方法を学習できる点にあります。しかも最後には、言葉で表現できない直感的な感覚でもってBMIを制御することができるようになります。いわば自分の体の一部のようにBMIを使いこなせるようになるのです。人間の脳はどこまで”柔らか”なのか?BMIを使ってこうしたde novo learning (*)の仕組みを調べたのが、この論文です(Cogn Neurosci 2018)。

*:これまでの経験を演繹できない、全く新しい状態からの学習。

生活環境や身体環境に適応する過程で後天的に獲得された生命活動情報の遺伝と進化のメカニズムを探求することは、我々ヒトとは何かを知る上で極めて本質的な問いであり、時代を超えていまでも我々を魅了し続けています。KiPASでの研究では、これまで生物学で中心的に扱われていたDNAを媒体とした生体物質情報の遺伝と進化という概念ではなく、ミームを媒体とした生命活動情報の遺伝と進化を扱った自然科学的研究を実施することで、人文科学・社会科学領域で論じられてきた知性と文化の研究を自然科学領域に統合し、21世紀における知の再体系化を推進することを目指しています。

私たちはこのようなKiPASでのBMI研究と並行して、生命情報学科において「BMIによる神経機能再生医療研究」を展開し、これまでアプローチが困難だった重度脳卒中片麻痺に対する新しい医療のデザインとサイエンス、そしてその実用化を目指しています。

脳卒中が原因で、随意運動や随意筋電図が発現できないほど重度な運動麻痺を呈した場合、「随意運動の企図、運動実行、視覚や体性感覚からのフィードバック」という、神経系内部を流れる一連のシグナルフローが破綻します。このことが長期化することにより、認知系や感覚運動系のさまざまな要素が二次的な機能変性に陥り、学習性不使用による機能増悪状態になると考えられています。私たちの考案したBMIリハビリテーションシステムは、頭皮脳波から体性感覚運動野の興奮性を推定し(特許第5283065号)、そのレベルに応答して電動装具による運動アシストと筋電気刺激を与えることで、脳卒中患者の麻痺手運動をトレーニングするものです(特許第5813981号)。このBMIを用いることで、残存している脳部位を再活性化させ、筋に至る代償経路を構築することができます。

これまでに、BMIリハビリテーションの施行にともなって、運動企図時における障害半球体性感覚運動野の興奮性が可塑的に高まることを、頭皮脳波やfMRIによって確認したほか(Brain Topogr 2015)、安静時における障害側一次運動野の興奮閾値が低下すること、麻痺側総指伸筋における随意筋電図上の所見が改善すること、手指の随意運動が改善し、臨床スコアが上昇することなどを症例集積研究により見いだしています(J Rehabil Med 2011)。ABABデザインによる一症例研究では、開ループ型BMIに治療効果は認められず、脳活動に応じたリアルタイムフィードバック要素が機能回復に重要な役割を果たしていることを示し(J Rehabil Med 2014)、非ランダム化比較試験による検討からは、視覚的なフィードバックよりも体性感覚フィードバックが効果的であることを示唆しました(Front Neuroeng 2014)。また、損傷半球一次運動野の興奮性を高める経頭蓋直流電気刺激法を併用することでBMIによる機能改善効果の持ち越し量が改善する、アジュバント効果の存在も確認しました(J Rehabil Med 2015)。BMIによる脳卒中片麻痺の治療に関しては、世界各国で独立におこなわれている臨床試験の結果をメタアナリシスした調査からも、その有効性が確認されています(Ann Clin Transl Neurol, accepted)。研究室というホワイトキューブの中で産声を上げたBMIが実社会に組み込まれようとしている現在、私たち研究者が果たすべき説明責任について、倫理学者、法学者、神経科学者からなる国際共同チームを組成して、Science誌に見解を表明しました(Science 2017)。

BMIはこのように、私たちの脳の仕組みを知り、脳を活かすための新しいテクノロジーとして発展していきます。私たちの活動に、どうぞご期待ください。

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