論文 | Energy Level Alignment of Organic Molecules with Chemically Modified Alkanethiolate Self- Assembled Monolayers |
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著者 | Masahiro Shibuta, Munehisa Ogura, Toyoaki Eguchi, and Atsushi Nakajima |
掲載誌 | The Journal of Physical Chemistry C 121(49), pp. 27399–27405 (2017). DOI: 10.1021/acs.jpcc.7b07955 |
化学物質単位である原子や分子のナノクラスターを機能電子デバイスの単位として利用するためには、電極基板とナノクラスターとの間で電荷が出入りする特性を最適化する必要があります。ナノクラスターは固有の離散的な電子準位構造をもちますので、電極基板の電荷注入の特性に適合するようにナノクラスターを化学変換することが、機能電子デバイスの設計上で大切な方策の1つでした。私たちは、電極基板を秩序化膜で化学修飾することによって、ナノクラスターの電子構造に合わせた電極基板の最適化が自在に図れないか、という視点から、高精度な光電子分光法を観測手段としつつ、電極基板の特性を最適化する方策を提案しました。
用いた電極基板は金電極上に形成させたアルカンチオール自己組織化単分子膜(H-SAM)で、アルカンチオールとはSH 基のチオールを末端とする直鎖炭化水素分子です。この炭化水素鎖の水素原子をフッ素原子で置き換えても同様の自己組織化単分子膜(F-SAM)が形成できます(下図参照)。本研究では、これらのH-SAM とF-SAM の秩序化膜上に、機能ナノクラスターのC60 フラーレンを蒸着させて、フェムト秒レーザーからの光子2 個を用いた光電子分光(2 光子光電子分光:2PPE)法によってC60 の電子準位構造を精密に観測しました。観測の結果、H-SAM をF-SAM に代えるだけで C60 の電子準位構造を、準位間隔を保持したまま、1.4 eV 程度までシフトさせることができることがわかりました。この電子準位のシフトは、金基板上に形成された秩序化膜の界面での電荷の偏りによって、電極基板からのナノクラスターに電荷注入する特性を制御できることを示しています。
秩序化膜に用いたアルカンチオールでは、フッ素化ばかりでなく炭素鎖の長さや官能基を、配向や位置を揃えて導入することが可能ですから、電極基板の電荷の偏りを精密かつ自在に改変することができます。したがって、電極基板の化学制御による新たな機能デバイス作りの方策を、本研究は2PPE によって示したことになります。このように均一性の優れた秩序化膜の利用は、ナノクラスターなどのナノ物質を集積する上で新たな要素技術となるもので、KiPAS で目指している『システム化学』に重要な視点を与えています。