有機分子を利用した物質といえばと質問すると多くの人は、医薬品あるいは繊維やプラスチック品をイメージするのではないでしょうか。有機合成技術の発展等に伴い、最近では、有機分子は新たな機能性材料としても活躍しています。例えば、テレビなどのディスプレイに用いられる液晶や有機ELといった電子材料にも利用されています。さらには、太陽電池や光触媒といった光エネルギー変換材料への応用展開も試みられています。光エネルギー変換材料は、太陽光からエネルギーが得られることから、環境低負荷エネルギー技術です。有機分子から構築される材料は軽い、柔らかい、製造コストが安価といった利点があります。したがって、有機光エネルギー変換材料は、クリーンでかつ持続的なエネルギーシステムに繋がる材料の一つといえます。

私たちは、この有機光エネルギー変換材料に利用可能な新規有機分子の設計・合成・物性評価を行っております。ここでは、最近私たちが設計・合成した分子において発現する光エネルギー変換効率向上に繋がる特異な光反応と応用展開に関して紹介します。

有機光エネルギー変換材料の研究は1960年代あたりから行われていますが、現在もなお効率の上昇が課題となっています。通常、有機分子は一光子から一励起子しか生成できませんが、もし一光子から二励起子生成することができれば、効率の上昇の可能性が極めて高くなります。この夢のような光物性は「一重項分裂」と呼ばれ二分子間で発現することが1965年に予測され、1969年に発現したことが間接的に証明されました (図1)。

図1. 一重項分裂の発現機構

しかしながら、当時、ピコ秒のタイムスケールという超高速で進行する一重項分裂を直接観測する手段はなかったため、この物性発現メカニズムや効率的発現の最適な分子構造など様々な点が未知でした。近年の超高速分光測定手法の発達に伴い、一重項分裂が直接観測することが可能となりました。私たちは、一重項分裂の効率的発現を目指し、最適な分子構造の確立やメカニズムを解明するため、構造の異なる様々な分子を合成し、超高速分光測定を行いました。検討を通して一光子から二励起子をほぼ定量的に生成できる励起子生成の量子収率約200%の分子を合成し、反応における電子スピン変化を観測しました (図2)。

図2. 高効率に一重項分裂が発現できる分子

次に、高効率一重項分裂が発現できる分子を逐次反応システムに応用展開しました。他の分子からエネルギー移動を経由した後、高効率な一重項分裂発現可能なシステム (図3A) や高効率一重項分裂を経由した後、高収率電子移動反応 (図3B)、あるいは高収率一重項酸素が生成できるシステム (図3C) を構築することができました。

図3. 高効率一重項分裂を利用した逐次反応システム

このように有機分子の物性は連結形式や骨格に導入する官能基で変化します。時にはメチレン (-CH2-) をたった一つ増減させただけで大きく変化することがあり、このちょっとしたことが、想像を絶する機能発現に繋がることがあり、自分たちが開発した分子が、有機ELのように将来、自分たちの目の前の製品に利用されているかもしれません。以上のように、私たちは無限の可能性を秘めている有機分子を用いて、「人々の生活を豊かにする」「環境に優しい」などの点から社会を支える、豊かにする新規機能性分子の開発を目標に日々研究を行っています。

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