Photographは、「光(photo)」と「画(graph)」を合わせた単語です。

いまの大学生の多くが生まれた年には、既にデジタルカメラが一般に市販されていました。写真といえばデジタルカメラやスマートフォンで撮影したものが主流の現代ですが、写真といえばフィルム写真の時代がありました。フィルム写真では、ヨハネス・フェルメールも使ったかもしれないカメラ・オブスクラのような像の投影技術に加えて、投影された像をフィルムに定着させる感光剤を使った技術が必要となります。18世紀にヨハン・ハインリヒ・シュルツェが硝酸銀とチョークのスラリーに光をあてると黒くなることを発見し、その後、ダゲレオタイプ、カロタイプが発表され、そしてリチャード・リーチ・マドックスによる臭化銀にゼラチンを混ぜたものを使ったゼラチン乾板の開発へと続きます。

さて、この銀に光をあてると黒くなるという反応ですが、高等学校で銀鏡反応の実験をした人もいるかもしれません。銀はイオン化傾向が小さいので金属として析出しやすく、銀イオンが光によって還元されて銀になり、黒くなります。フィルム写真においては露光によるネガの作製がこれに当たります。要するに、光があたると黒くなるものをフィルムに塗っておき、光の像を投影することで場所選択的に還元反応を生じさせて金属を析出させます。

この還元反応を、二次元平面のフィルム表面ではなく、三次元的に物体の内部において生じさせることができます。私たちの研究室では、超短パルスレーザーを使ってハイドロゲルの内部に金属の微小構造を作製する研究を行っています。ハイドロゲルとは、ゼリー、ソフトコンタクトレンズ、こんにゃく、プリン、のように水を内部に含むものです。マドックスは乾かして使いましたが、ゼラチンもハイドロゲルです。フェムト秒レーザーパルスをハイドロゲルの内部に集光すると、非線形相互作用により光子密度が高い集光点のみにおいて金属イオンが還元され、金属が析出します。金属構造は様々な光学的・電気的特性を持ち、ハイドロゲルの変形や体積膨張・収縮に応じてその特性が変化します。この技術を展開すると、例えば二種類の金属を組み合わせて、ソフトロボットのようなハイドロゲルが折れ曲がる方向を光によってコントロールすることができます。

光と物質の相互作用を研究の軸として、人体のようにやわらかい材料の内部に光学的・電気的な役割を果たす金属構造をレーザーで描画する。将来に誕生するであろう、人に近いデバイスやロボット等を想像できませんか。

ハイドロゲルの内部に描画した微小なペンマーク。横幅は約0.1 mm。

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