2013年オバマ政権によって発足したブレインイニシアチブを皮切りに,EUや日本でも脳の解明に力を入れるプロジェクトが国家プロジェクトとして立ちあがり5年が過ぎました。そもそも脳には1000億個の神経細胞がそれぞれのネットワークを形成し,物事を記憶したり考えたりすることができます。このような脳の働きについて古くからその仕組みを解明しようと活発に研究がなされてきましたが,未だよく分かっていない事の方が多く,現在でも医学・工学・理学・心理学などを始めさまざまな側面から研究が行われています。またそれを知ろうとする手段としてよく耳にするMRIや脳波,脳磁図,脳血流などを使って様々なアプローチで研究が行われています。

私たちの研究室でもこれらの装置を研究対象によって使い分けています。例えば疾患調査だと脳の中を詳細に細かく調べないといけないため(詳細さを空間分解能が高いと言います),MRIを用いています。また感情などの変動を検出したい場合はリアルタイムで計測し解析する必要があるので(時間を細かく見ることを時間分解能が高いと言います),脳波を用います。このように研究の内容によって用いる装置も大きく変わります。

これらを使って私たちが作った感性評価装置を紹介します。感性は人の器官から入力される情報に対して,それに対するアウトプット,つまり感じ方を一番反応の早い脳波で取得する,という研究を行なっています。感じ方を捉えるためにはまず何かを感じた際に出る脳波の特徴を解析しないといけません。つまり,イラっとする・好きだと感じる・暑いと感じる・美味しいと感じる・・・様々な感情を集めてその脳波を解析します。この時の解析に用いるデータが少なければ感情ごとに獲得した脳波の特徴を用いた際に,Aさんには通用するがBさんには通用しない,という汎用性のないものとなってしまいます。そこで私は15年の歳月をかけて集めた約1万人のデータを元に特徴解析をしました。つまり,ストレスなどの各感情を有している脳波を1万人集め,その特徴を獲得することで,今度はその特徴がどれくらい出ているか,を見ることでストレスの強度が計測できる,といった具合です。歳月はかかりましたが,膨大にデータを集めることで精度の高い計測を行うことが可能となっています。

ここまでは人間を対象とした研究ですが,私達は動物実験で情動を変化させる研究も行なっています。人間には感情がありますが,動物では分かり得ません。バウリンガルやニャウリンガルなる装置があり,犬や猫の気持ちがわかるという装置が売られていますが,果たしてそれがあっているかどうかは話をすることができない動物が相手なので不明です。その代わりに情動は分かります(感情と情動の違いはここでは割愛します)。その情動を脳に微量の電気刺激を与えることで制御することができるか,研究中です。もしも動物において刺激信号を脳に与えるだけで情動が変化することが分かればそれは人間でも可能となります(トランスレーショナルリサーチと言います)。

このように,私達は脳波によって感情の解明をし,動物によって外から脳に与える刺激が情動を変化させることができるか,について研究しています。これらの話は研究室で行なっている研究の一部にはなりますが,脳を知ろうとする研究の一部です。私達は他にも、考えている事を文字にするための脳解析などにも力を入れています。

感情をリアルタイムに知ることができる世界初の装置

オンライン気持ち認識と自動動画撮影システム (気持ちカメラ)

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