ここで、1 が現れる桁はフィボナッチ数列の各項を 3 倍した数列
3, 6, 9, 15, 24, 39, 63, ... です。\(\theta_{1}\ \)、\(\theta_{2}\ \)、\(\theta_{3}\ \)が代数的独立であることは、\(\theta_{1}\ \)と\(\ \theta_{2}\ \)からどのような四則演算や平方根などをとる計算を繰り返しても\(\ \theta_{3}\ \)は得られないことを意味します。同様に\(\ \theta_{n}\ \)までの数を作ると、\(\theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \),…, \(\theta_{n}\ \)も代数的独立となることが分かります(\(\ \theta_{n}\ \)の小数表示には、フィボナッチ数列の各項を\(\ n\ \)倍した数列に対応する桁にのみ 1 が現れます)。
代数的独立な超越数たちは、例えて言うなら未知の部分が多い超越数の世界での道しるべや灯台の役割を果たします。そのような意味で上記の研究がどのように役立つかご説明します。変数\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)の整数係数の多項式\(\ {P_{1}}\ \)(\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)),\(\ {P_{2}}\ \)(\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \ \)),…,\(\ {P_{m}}\ \)(\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)) を考えます。ここで、変数\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)は何個あってもよいことがポイントです。また、これらの多項式は互いに異なってさえいればよい、即ち、すべての異なる番号\(\ i\ \)と\(\ j\ \)に対して\(\ {P_{i}}\ \)(\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)) - \( {P_{j}}\ \)(\(\ {X_{1}}\ \), \( {X_{2}}\ \),…, \( {X_{n}}\ \)) ≠ 0 であるとします。これらの多項式に\(\ \theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \),…, \(\theta_{n}\ \)を代入して得られる値\(\ {P_{1}}\ \)(\(\ \theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \) ,…, \(\theta_{n}\ \)),\(\ {P_{2}}\ \)(\(\ \theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \) ,…, \(\theta_{n}\ \ \)),…,\(\ {P_{m}}\ \)(\(\ \theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \) ,…, \(\theta_{n}\ \)) は\(\ n\ \)と\(\ m\ \)がどんなに大きくてもすべて異なる超越数となり、超越数の実例を同時に大量に作り出すことができるのです。
実は、\(\theta_{1}\ \), \(\theta_{2}\ \),…, \(\theta_{n}\ \)が代数的独立となる背景には次のような「仕組み」が隠れています。
● 小数での表示において 0 が続く部分がどんどん長くなる。
● フィボナッチ数列の各項を 2 倍、3 倍、4 倍、・・・として作られる数列はどれも元のフィボナッチ数列の一部分にはならない(等比数列 2, 4, 8, 16, 32, 64, ... の各項を 2 倍したり 4 倍したりした場合とは異なる)。
この例をはじめとして、代数的独立な超越数を効率よく得られるような「仕組み」を明らかにすることが当研究室のテーマのひとつです。フィボナッチ数列のようなひとつの数列から代数的独立な超越数をたくさん得られる仕組みの解明が、数の世界を探索するための足がかりとなるのです。