サイバーフィジカルヒューマンシステム (CPHS) やHumans-IoTと呼ばれる新しいシステム開発が世界的に注目されている。日本は2016年、世界に先駆け「超スマート社会」実現を目標とし、未来の社会像をSociety 5.0として提唱している。

超スマート社会の実現には、人工知能やシステム科学、ロボット、交通システムなど様々な技術開発が必要であるが、その要素技術の中で基幹となるものがエネルギー管理システムである。

2011年の東日本大震災以降、自然エネルギー大量導入の社会的要請に伴い、それまで独占的であった電力エネルギー事業形態の見直しと、電力自由化の再検討が進んでいる。安価な電力を購入出来る可能性が広がるため、我々一般消費者からは歓迎すべきことである。自然エネルギーの分散型電源の増加は、電力の地産地消が進み、送電に伴うロスが減り、コスト削減に繋がる。しかし自然エネルギー大量導入により、何も問題は生じないのであろうか。

電力は極めて特殊な財であり、大量の電力を貯蓄することは困難である。供給した電力は同時に消費しなければならないし、逆に消費したければ、その分リアルタイムで供給が必要である。需要と供給のバランスを維持しないと周波数を一定 (50/60 Hz) に保つことが出来ない。これまでは地域の電力会社が、需給調整による電力品質の維持に努めてきたが、自然エネルギーの分散型電源が増えることにより、電力品質の劣化や、それが進行すると大停電が引き起こされる危険性がある。

この問題を解決する方策が、分散型電源のスマートな分散協調型制御技術である。そもそも分散制御とは、電力ネットワークのような大規模システムを幾つかのサブシステムに分割し、それぞれのサブシステムに意思決定の権限を与える制御手法である。その結果、制御装置は、サブシステムの数だけ必要となるが、各制御装置は個々のサブシステムの特徴や状況に合わせてローカルかつフレキシブルに意思決定することが出来る。サブシステムは全体システムに比べ、小規模となるので、扱う通信量や計算量を大幅に削減することが出来る。しかしサブシステムでの最適化が、必ずしも全体システムの最適化に繋がることは保証されない。場合によっては安定性を損なう危険がある。そこで各サブシステムの制御装置が、隣接するサブシステムの制御装置と情報共有することで、サブシステム間の協調的な振舞いを加え、全体システムの安定性や準最適性を保証する制御手法が分散協調型制御技術である。

この制御手法を大規模電力ネットワークに応用しようとするものが分散協調制御型エネルギーネットワークである。下図のようなエネルギーネットワークにおいて、BEMSやHEMSなどの複数の意思決定者が、基本的には独立して、自由にエネルギー管理をするが、一定のルールの元で、近隣者と相互に情報とエネルギーを共有することで、エネルギー効率を高めることが出来る。

自然エネルギーの分散型発電が分散協調型制御技術により制御されることにより、エネルギーの地産地消が進み、CO2排出を抑えて温暖化に歯止めをかけ、災害に強いエネルギーネットワークが近未来にやってくることが期待されている。

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