今年は日本でのラグビーW杯、来年にはいよいよ2020年東京オリンピックが開催されます。これらの大規模なスポーツイベントでは、情報通信(ICT)技術、人工知能(AI)技術などが大いに活用され始めています。特に、判定の正確性や公平性に対する要求の高まりから、センサやカメラ映像などを活用した判定支援のためのシステムが実際に運用されています。テニスにおけるボールの着地位置判定システム、サッカーのゴール判定システムなど、ご存知の方も多いことでしょう。これらは、複数視点のカメラによる画像計測により、ボールの位置情報を計測した上で、精確な判定が実現されています。これらは、判定を支援するための新たな「目」としての機能を提供していると言えます。

私たちの研究室では、一台のカメラで撮影したラグビー試合映像を対象に、画像処理と深層学習を用いて選手やボールの位置を取得しながら、ラグビーの戦術分析に必要な主要プレーの自動分類を行うシステムを東芝と共同で開発しています(図1)。深層学習を用いて映像中の選手やボールを検出、追跡しながら、カメラ視野とグラウンドの対応付けを行い、フィールド上の選手、ボール座標を取得します。そして、それらの位置関係や動きを特徴として、パス、スクラム、キックなどのプレーの自動分類を行っています。これにより、試合終了後、チームのアナリストは自動分類された統計情報を用い、より高度な戦術分析に専念することができます。

これらの研究の行き着く先をちょっと考えてみましょう。判定支援システムについては、客観的な観測・データ分析に基づいて判定、採点を行う”ロボット審判”の実現、ということになると思いますが、現状ではあくまで、判定を“支援”する立場に留まっています。技術的には既に自動化可能な競技もあると思いますが、完全に機械に判定を任せるという点については、判定する側も、見る側も、まだ何となく受け入れられないといったところかと思います。戦術分析についても同様で、先のラグビーの事例でも現状は、統計データをアナリストに素早く提供するところまでで、その後の詳細な戦術分析と具体的な戦略立案については、専門家であるアナリストの仕事です。多数の試合のデータが蓄積されてくれば、新たな戦術の提案までを行うAIの実現も技術的には可能でしょう。より賢いAI技術を持ったチームが常に勝利を収める、そんな時が来るかも知れません。個人的には、AIによって提供される様々な分析データを駆使して、人間がより創造性の高い知的活動を行う、といった協調的な関係が理想的と思っています。

ラグビーの早慶戦は毎年、大接戦となり、大変盛り上がっています。毎年、観戦に行っていますが、時代が変わり、人が変わっても、慶應、早稲田のラグビーの伝統的なプレースタイルは継承され続けているのを感じます。データはデータとして有効に活用しながら、最終的にプレーする選手達の気持ちを高ぶらせる、AIとは無縁の何かが作用していることは間違いありません。

ともかく、オリンピックやW杯などのビッグイベントを通して、技術革新が起こることも少なくありません。来年の東京オリンピックでどのような新しい技術が活用されるのかいつもとちょっと違う目線でスポーツ観戦を楽しんでみてはいかがでしょうか?

図1 人工知能技術によるラグビー映像解析システム

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