言うまでもなく、\( \pi\) の積分表示を得ることによって微積分などの道具が使えた訳ですが、その有効性は想像以上ではないでしょうか。(実は\( \ \sqrt{3} \ \) を先に計算することを前提としていますが、有理数だけで近似する方法も知られています。)このような積分表示の有効性は幾何的なものに限りません。
破産確率
A 君の全財産は 100 円です。これからコインを投げて表が出ると 100 円取得し、裏が出ると 100 円失うゲームをします。全財産を失うとゲームは終了します。このとき、全財産を失わない確率を求めましょう。
1 回目でコイン投げで勝つ確率は\( \ \frac{1}{2} \ \)です。したがって、全財産を失っていない確率は\( \ \frac{1}{2} \ \)です。
2 回目のコイン投げでは、1 回目でコイン投げで勝っていれば、全財産を失わないので、全財産を失っていない確率も\( \ \frac{1}{2} \ \)です。
3 回目のコイン投げでは、2 回目でコイン投げで勝っていれば、負けてもよいですが、2 回目でコイン投げで負けていれば、勝たないと全財産を失います。したがって、3 回目まで全財産を失っていない確率は
\( \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2} \times 1 + \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \right) \ = \ \frac{3}{8} \)
です。
4 回目まで全財産を失っていない確率も\( \ \frac{3}{8} \ \)です。同様にして、全財産を失うのは奇数回です。
一般に 2\(n\) 回目まで全財産を失っていない確率は
\( p_{2n} \ = \ 2^{-2n} {}_{2n} \mathrm{ C }_n \ = \ \frac{ \left( 2n-1 \right) \left( 2n-3 \right) \ \cdots \ 1}{2n \left( 2n-2 \right) \ \cdots \ 2} \)
であることがわかります。(証明はやや面倒なので、省略します。)これは厳密な値ですが、今度は計算が容易ではないです。例えば、
\( p_{100} \ = \ \frac{ \ 99 \cdot 97 \cdot 95 \ \cdots \ 1 \ }{ \ 100 \cdot 98 \cdot 96 \ \cdots \ 2 \ } \)
です。しかし、本当に欲しいのはおおよその値ではないでしょうか。
ここでも積分表示が役に立ちます。数学的帰納法から容易に
\( p_{2n} \ = \ \frac{2}{ \pi} \ \int_0^{ \pi/2} \sin^{2n}tdt \)
であることがわかります。これと相加相乗平均を使ったほんの少しの議論から評価式
\( \sqrt{ \frac{4n+4}{4n+3} } \frac{1}{ \sqrt{ \pi \left( n + \frac{1}{2} \right)}} \ \leq \ p_{2n} \ \leq \ \sqrt{ \frac{4n+1}{4n} } \frac{1}{ \sqrt{ \pi \left( n + \frac{1}{2} \right)}} \)
が得られます。したがって、\( n\ \)が十分大きいとき、\(p_{2n}\ \)は\( \ \frac{1}{ \sqrt{\pi n}} \ \)に近い、式で表すと
\( p_{2n} \ \fallingdotseq \ \frac{1}{ \sqrt{\pi n}} \)
です。これを検証してみましょう。