1ナノメートル (1 nm = 10億分の1メートル) と聞いて、皆さんはどんなことを想像されるでしょうか?原子 (0.1 nm程度) よりは大きく、ウィルス (100 nm)や細菌 (1000 nm) よりは遙かに小さく、多くの分子 (0.5 ~ 数 nm) がこの大きさを持っています。このサイズの領域は、多くの物質の機能をつかさどる最小単位となります。私達が研究を進めている「ナノクラスター」は、ちょうどこのサイズ領域に属し、原子や分子を数個から数百個程度集めて出来上がっています (図1)。

図1. ナノクラスターの例 (a) 金属内包シリコンケージ、(b) 典型元素内包アルミニウムケージ、(c) 配位子保護金属ナノクラスター

原子を数百個以下の有限個集合することで、バルク固体や原子 (錯体) では見られなかった性質があらわになります。これは、原子集合体という一つの容器の中に、全ての構成原子が価電子を出し合うことで、新しい超構造を形成するためで、大きな原子のようであることから「超原子」と呼ばれています。周期表の隣の元素が違う性質を示すように、超原子の性質も、一つサイズを変えれば大きく変わります。つまり、この超原子の特質を活かして ”ものづくり” をするためには、原子の数を峻別して物質を作製 (合成) することが重要です。

微細なナノクラスターを合成するには、原子を集めて集合体とするボトムアップ法が用いられます。この方法は、原子同士が会合する自己組織化反応に基づいており、極めて速い反応です。この反応を制御し、望みのナノクラスターを作り上げるためには、化学反応や分子の拡散などといった現象を分子レベルで理解しながら進める必要があります。私達はこの視点に基づき、合成の方法論に工夫を加えながら合成装置を設計・製作し、ナノクラスターの精密合成を進めています。

真空中でナノクラスターを合成する乾式法は、対象元素の原子のみが存在するクリーンな環境下で、プラズマなどの局所高温反応場を利用してナノクラスターを生成します。このため、溶液中では作製の難しいケイ素やアルミニウムのナノクラスターの作製が可能です。一方で、生成量が少なく、物質合成には向いていませんでした。私たちは、乾式法の高強度化を進め、サブナノクラスター精密合成装置nanojima®を開発し、M@Si16の大量合成を可能にしました。

他方、溶液中でナノクラスターを合成する湿式法では、合成量は多い反面、液中の反応場が微視的に不均一になりやすく、サイズの制御が困難でした。私たちは、超微細マイクロリアクターを開発し、反応場の微視的な均一化を進めることによって、湿式法によるナノクラスターの精密合成を可能にしました。

私達は、ナノクラスターの種類や必要なサイズに合わせて合成法に工夫を加えるとともに、それらが示すサイズ特異的な物性の評価を通じた “ナノクラスター物質科学” を進めています。

図2. 開発した2つの合成装置: (a) サブナノクラスター精密合成装置 nanojima®、(b) 超微細マイクロリアクター

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