夏の暑い時期にディズニーランドに行って、こんなに長い時間待つのならばアトラクションの行列に並びたくないと思ったことはありませんか? この状態では、そのアトラクションを訪れる価値と待つことによる負の価値が等しくなっています。すると、そのアトラクションの来園者に対する価値はゼロとなります。せっかくの人気アトラクションが台無しです。

アトラクションの数を増やせば混雑を緩和できますが、来園者が多い時期に合わせてアトラクションの数を設定すると設備費が過剰になります。来園者が多い時期に、来園者の行動を変えることはできないものでしょうか? 乗り物タイプの人気アトラクションから劇場タイプの空いているアトラクションに一部の来園者の流れを振り替えることができたら、混雑が緩和されます。

稀少資源の配分方法としては課金が一般的です。混雑課金という考えは古くからあります。実際にいくつかの海外の都市では、混雑する時間帯に高い通行料を課すことにより都市部の道路網の混雑を緩和しています。ディズニーランドでも、昔はアトラクションごとの課金があったようです。人気アトラクションの料金を高く設定すれば混雑は緩和されます。混雑の度合いに応じて料金を動的に設定すればさらに効率が上がりますが、来園者には違和感があるかもしれません。

実は混雑自体も稀少資源の配分方法です。混んでいても諦めない人だけが資源の配分にあずかることができます。この配分方法は公平ですが、待つことの我慢競争は避けたいものです。公平性を保ちつつ効率性を上げる方法はないものでしょうか?

東京ディズニーランドは優先権パス(ファストパス)を発行しています。優先権パスを使うと、私は嬉しくなり、とても得をした気持ちになります。実は優先権パスは、心理的な影響があるだけではなく、混雑緩和のための有効な手段となることがあります。夏の炎天下、とても混雑している人気アトラクションを考えて下さい。このアトラクションの来園者に対する価値はゼロです。少数の優先権パスが発行されたとします。すると、元々そのアトラクションを訪問したいと思っていた人のうちの少数が優先権パスを使い、喜びます。一方、そのアトラクションを訪問しようと思っていて優先権パスを持っていない人達の待ち時間は長くなります。すると、その人達のうちの一部は人気アトラクションを訪れることを諦めます。よって、混雑が緩和されます。優先権パスの有無は不公平を生みますが、ディズニーランドでは、一般来園者に対しての優先権パスの配布方法は公平です。つまり、この優先権パスは公平性を担保しつつ効率性を上げる賢い方法ということになります。いくつかのテーマパークでは優先権パスを販売しています。地獄の沙汰も金次第というのは夢がないかもしれませんが、効率性の面では良い方法です。

テーマパークのアトラクションの混雑は、来園者達の好き勝手な行動の結果生じるものです。その結果を均衡と呼びます。誰しも混雑しているアトラクションは避けたいと思います。つまり、どのアトラクションを訪れるかについて、人は群れを避けようとします。このような状況では、均衡は一つだけになる傾向があります。一方、多くの人があるアトラクションで優先権パスを使っているときには、自分が優先権パスなしでそのアトラクションを訪問すると不利になるので、自分も優先権パスを使いたくなります。つまり、優先権パス使用に関しては、人は群れたがります。このような状況では、均衡が複数となる傾向があります。その場合は混雑予想が難しくなります。また、不都合な均衡が生じることがないように、優先権パス発行の仕組みを注意深く作る必要があります。

混雑はテーマパークや道路網だけの問題ではありません。食品ロスが社会問題になっていますが、その一因は、サプライチェーン内でモノが混雑・滞留して食品が賞味期限切れとなることです。私の研究室では、社会・経営・経済に関わるさまざまな問題に理論的に取り組んでいます。混雑現象の分析はその一例です。

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