カーボンナノチューブやグラフェンで知られるナノカーボン材料は、ナノテクノロジー業界ではエリートのような存在ですが、そのエリートは“果たして真の頂点を極められるのか?”ナノカーボン材料は、原子オーダーで小さな構造を持っていることから、小さな領域でしか発現しない特異な量子力学的効果、電気伝導特性、光物性、熱物性が発現します。そのため、ナノカーボン材料は、基礎研究分野において大成功を収めており、次々と新しい物理現象が発見されたり、従来の物質とは比べ物にならないほど高い特性が得られたりしていて、今もナノテクロジーの中心といえる材料です。グラフェンの発見から僅か6年後の2010年にノーベル物理学賞を受賞していることは、ナノカーボン材料のインパクトがいかに大きいかを物語っています。
 
 私たちは、ナノカーボンを用いた電子物性・光物性・量子物性・熱物性に関する基礎研究や、それを用いたデバイス開発を進めています。特に、早くから光・電子デバイスに着手していて、ナノカーボンを用いた波長可変発光、超高速発光素子、室温・通信波長帯単一光子発生などで、世界初の成果を挙げています。また最近は、ナノカーボンと異種材料をハイブリッド化させて新たな物性を引き出す試みも始めていて、超伝導体と組み合わせた超伝導ナノワイヤーによる量子物性探索なども行っています。研究の詳細は、 研究室のHP をご覧いたければと思いますが、これらの研究は、光通信、集積光デバイス、量子暗号や量子ビットなどの量子情報デバイス、ディスプレイデバイスなど、様々な応用につながる基礎研究となっています。

 また、最近は、これらナノカーボンデバイス基礎研究を実用化する取り組みもスタートしています。ただ、基礎研究の実用化を目指すというのは、研究を論文誌に発表することと比べて何十倍もハードルが高く、スポーツに例えると、オリンピックのメダルを目指すようなものだと感じています。身近な地区予選から始まり、全国大会、そして最後にオリンピックでメダルを取る。これは、本当に険しい道のりです。基礎研究も、最初の基礎研究では身近なナノカーボンの同士の競争、次に現代素子の王者であるシリコン・化合物といった固体半導体素子との性能競争、そして最後は、素子が組み込まれた製品同士の競争。製品では、もはや性能だけではなく、製造コスト・需要・既存製品との代替の費用対効果といったビジネス要素も入ってきます。また、オリンピックでメダルを取るレベルともなれば、努力だけではどうしようもなく、「生まれ持った素性の良さ(=才能)」も必要になりますが、ナノカーボンも「生まれ持った素性の良さ」がなければ、いくら努力しても実用化できません。基礎研究では成功を収めてエリートであるナノカーボンは、果たして実用化ではその「才能」があるのか?そして、“真の頂点を極められるのか?”これは、まだ誰にも分かりませんし、私たちの現在の取り組みも十年後には挫折している可能性すらありますが、今は、それを夢見て日々努力していくしかありません。まさに、オリンピックを目指す選手と同じ気持ちなのかもしれません・・・。

図. 研究室でのナノカーボンデバイスの取り組みと期待される応用

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