組織活動を効果的・効率的に進めていくために、過去の経験や勘だけに頼らず、「事実に基づく管理」が重要とされています。常に「事実に基づくデータがあるかどうか」が問われて、「データに基づく客観的な判断と行動」を行うべきとしています。この考え方は、モノづくりの現場での品質管理活動において、よく言われて非常に重視されています。また、野球の例になりますが、「ID野球」(IDは、Important Dataの略)という野球に対する考え方があります。ID野球は、経験や勘に頼ることなく、データに基づいて、チームの戦術、選手のプレー、投手の配球などを、科学的・論理的思考で決断し、進めていこうとする戦い方です。野村克也氏が、かつてヤクルトの監督時代に提唱して広まった言葉であり野球観です。ID野球は、まさに、「事実に基づく管理」と言えます。

最近、ビッグデータ、データ・サイエンスというキーワードを耳にすることがあるかと思います。統計学の関連本がベストセラーになり、深層学習(Deep Learning)も世間で話題になるなど、データの活用がかなり注目されています。情報技術の進化により、ビジネス、行政、医療、スポーツなど様々な分野で、大量で多様なデータが取得できるようになり、それらのデータを活用して価値のある情報(ビジネスにおいてはお金になる情報)を抽出し、アクションにつなげたいということです。ビッグデータ、データ・サイエンスの活用は、「事実に基づく管理」を行っていることになります。

私は「応用統計解析」を専門としていますが、応用統計解析は「事実に基づく管理」のための学問であるとの認識のもとで、研究・教育活動を行っています。ここでは、私が取り組んでいる「プロ野球チームの顧客満足度指数化モデル」の研究を紹介します。本研究は、プロ野球のサービスを対象にして、サービス品質と顧客満足度の因果モデルを構築し、因果関係の検証や数値化を行います。サービスには無形性という特徴があり、一般的に、サービス品質に関する評価の数値化が困難とされています。本研究では、顧客(ファン)の知覚品質(ファンがどのように品質を認識したか)でサービス品質を評価してもらい、統計解析を通して、プロ野球チームのサービス水準や満足度を数値化します。各チームのファンに対してアンケート調査を実施し、チーム成績、チーム・選手の魅力、ファンサービス・地域貢献、ユニホーム・ロゴ、総合満足度、応援ロイヤルティ(チーム応援の意向など)、観戦ロイヤルティ(球場での観戦意向など)に関する項目、その他の関連項目を評価してもらいます。調査は、現在までに、9年間(2009年~2017年1月下旬)実施しています。回答者の条件は、調査時点から1年以内に1回以上、応援するチームのホーム球場で試合観戦をしている人です。毎年の各チームの回答者数は100から120を確保、9年間の合計数は13,372です。図1は、共分散構造分析という手法を用いて構築した、サービス品質→総合満足度→応援ロイヤルティ→観戦ロイヤルティの因果モデルを示しています。因果関係の大きさは、矢線近くの数値(標準化係数)で表されます。

図1:プロ野球チームの顧客満足度指数化モデルと推定結果 (2017年1月下旬調査)

注:矢線近くの数値は標準化係数を表す

図1:プロ野球チームの顧客満足度指数化モデルと推定結果 (2017年1月下旬調査)

この結果(標準化係数の大きさ)から、「ファンサービス・地域貢献」が総合満足度にもっとも影響を与えていることがわかります。すなわち、総合満足度を向上させるためには、ファンサービス・地域貢献活動が有効であることを示唆しています。

図2は、2017年1月下旬までの過去9年間の各チームの総合満足度スコア(潜在変数のスコアを100点満点に規準化したスコア)の経年変化を示しています。

図2:各チームの総合満足度スコアの経年変化

図2:各チームの総合満足度スコアの経年変化

直近の2017年1月下旬調査において、注目すべきチームの評価について考察します。

■ 広島: 2017年1月下旬調査では2年ぶり2回目の総合満足度1位(73.8)となりました。2016年シーズンでは、25年ぶりのリーグ優勝を成し遂げて、鈴木誠也選手の活躍を評した「神ってる」など、戦いざまなどもかなり注目されました。2009年の新球場への移転をきっかけにサービスが劇的に向上し、若手選手の台頭から「カープ女子」と呼ばれる女性ファンも急増し話題となりました。近年はチーム力も向上し、高水準での総合満足度1位となりました。

■ ソフトバンク:2017年1月下旬調査では総合満足度2位(70.8)となりました。2016年シーズンではリーグ優勝を逃しましたが、チーム・選手の魅力、ファンサービス・地域貢献などが高い評価であり、総合力で高水準を維持しました。

■ 日本ハム:2017年1月下旬調査では総合満足度3位(68.3)となりました。2016年シーズンでは、チーム成績は日本一、大谷選手の大活躍もあり、もっと高い満足度評価が期待された状態でした。広島、ソフトバンクと比較すると「ファンサービス・地域貢献」がやや低い評価となりました。日本ハムはファンサービス・地域活動の活性度が高い球団ではありますが、ファンの期待値も上昇しており、それを上回るサービスを提供する困難さがあると推察されます。

■ 中日:2017年1月調査下旬調査では総合満足度スコアの順位が12位(43.4)となりました。2016年シーズンはチーム成績も最下位となり、チーム・選手の魅力度の評価も低下しています。ファンサービス・地域貢献に対する評価も低いのが現状です。球団トップが明確なビジョンや方針を示し、チーム力、選手育成方針、ファンサービス・地域貢献の向上のための抜本的な対策が必要と考えられます。

以上のように、プロ野球チームの満足度指数化モデル、サービス品質や顧客満足度の数値化から、チームの取り組みに関する様々な「気づき」が得られます。良い成果をあげているチームは、ファンサービス・地域貢献、チーム成績、チーム・選手のバランスがよく、ファンとチームとの一体感がとれていることが読み取れます。このような数値化は、客観的な判断と様々なアクション、すなわち「事実に基づく管理」へとつながります。

最後に、「事実に基づく管理」は、ビジネスや部活等の組織活動だけでなく、日々の個人の活動にも有効です。例えば、家事の所要時間、演習問題の正答率や解答時間、ジョギングのタイムなどのデータを取得して事実を把握し、自身の管理に活用することです。あらゆる場面で、「事実に基づく管理」の意識を持つことをおすすめします。

参考文献
鈴木秀男:「顧客満足度向上のための手法-サービス品質の獲得—」、日科技連出版社、2010.
鈴木秀男:「サービス品質の構造を探る—プロ野球の事例から学ぶ—」、日本規格協会、2011.
プロ野球のサービスの満足度調査:慶應義塾大学理工学部 管理工学科 鈴木研究室HP

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