固体が破壊してバラバラになるときには、たくさんの亀裂が発生し、それらの亀裂がつながって、もとの固体がいくつかの小さな破片に分かれます。石が当たってガラス窓が割れるとき、普通のガラスだったらそれなりのサイズの多角形の破片が飛び散ります。強化ガラスだったら細かな網目状に亀裂が走って飛散を防ぐか、粒状の細かな破片に分かれてザラザラっと下に落ちたりします。また、岩石をハンマーで叩いて割ると、様々な大きさの破片に分かれます。いずれの場合も、直観的には「まぁ、なんだかバラバラになるのだな。」というくらいのことで、特に不思議に思うことは何もありません。

では、乾燥した田んぼの表面に入っている亀の甲羅状の亀裂はどうでしょう。誰しも一度は目にしたことはあると思いますが、なぜ、あんな感じの多角形のセルに分かれているのでしょうか。あの多角形のセルのサイズって何で決まっているのでしょうか。言われてみれば、なんだか不思議な形だと思いませんか?(図1)

田んぼの表面の亀裂よりも、さらに不思議な形が「柱状節理」です。インターネットで「柱状節理」を検索すると、東尋坊、Giant’s Causeway、Devils Towerなど、日本や世界の名勝奇勝がたくさん出てきます。柱状節理とは巨大な岩に亀裂が形成されて、岩が多数の多角柱に分割され、まるで鉛筆を束ねて立てたかのようになっている地質構造を指します。柱状節理を上から見ると、ちょうど田んぼの表面のひび割れ同様に多角形のセルが並んでいるように見えます。(図2)

私は固体の破壊について数値解析の手法を用いて研究しています。破壊の研究の中で、亀裂が形成する不思議な形は興味深い研究対象です。田んぼのひび割れや柱状節理は、複数の物理現象が相互に影響を与えながら進んで行く「マルチフィジックス」の問題です。田んぼのひび割れや柱状節理のような「不思議な形」は、このように複数の物理現象が絡むマルチフィジックスの結果として形成されることが多くあります。具体的には、田んぼのひび割れの場合は、水分移動を支配する拡散現象と、水分膨張/乾燥収縮による物体の変形、そして変形が進んだ結果生じる破壊、の3つの現象「拡散、変形、破壊」の連成問題になります。そして柱状節理は溶岩が急冷される際の熱の移動を支配する拡散現象と、熱膨張/収縮による物体の変形、破壊、つまりこれも「拡散、変形、破壊」の連成問題です。そしてこれらの連成問題を解析する際、特に厄介なのが「破壊」の扱いです。破壊によって発生する亀裂は、連続な変形の場に突然現れる不連続な場です。数値解析で、このような場を扱うことは難しいのです。田んぼのひび割れや柱状節理は、「不連続場の進展を伴うマルチフィジックスにおけるパターン形成」の問題であり、数値解析における最も難しい問題のひとつなのです。これまでに、田んぼのひび割れの数値解析には成功しました。(図3)次のターゲットは柱状節理です。

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