竹中平蔵元経済財政政策担当大臣、慶應義塾大学政策メディア研究科教授が2014年の理工学部のテクノモールの基調講演で、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの提唱するイノベーションを生むキーポイントが、「新結合」にあると言われた。私の理解の範囲で説明すると、一見関係がない複数の技術を組み合わせることによって新しいイノベーションの技術が発生する…ということである。慶應理工学部では、産官学の集まる場所をKIF(Keio Innovation Foundry)として昨年スタートさせ、ここは、テクノロジーのWatering Hole(サバンナの水飲み場)として、技術と技術が出会う場所として研究を開始した。そのKIFで、我々は今、スマートネットワーク研究センターを立ち上げ、その中でEVNO(Energy Virtual Network Operator)を提唱している。

図1

従来のスマートグリッドは、ちょうど渋谷区ぐらいの大きさの電力のプールのような状態になり、発電量と消費量を同時同量制御することによりプールの深さ(電圧、周波数)が一定となるようにコントロールする。図ではEVNO-1、2と2社が送配電網のインフラを持たずにビジネスをする。この2社は、同時同量のルールを守り、それぞれ工夫して制御を行う。たとえばEVNO-1は、比較的余裕のある発電所を備えており、ユーザーは自由に電力を使える。一方、EVNO-2は、ヘアドライヤーのような短期の需要が生じると、周辺のクーラーや冷蔵庫を制御して(ネガワット)需要があたかも生じないようにし、需要のピーク/ボトムを100%に近くすることにより、効率を上げる。このようにEVNOごとに、価格やサービスの品質を変えることができ、競争を生むことができる。

実際の制御は、図2のように、制御のマッチング(需要の供給のペア)はP2P技術(一時流行していた音楽や映画コンテンツを配信する技術)を用いてスケーラビリティをもっておこなう。これらは、機械同士の自動的制御であり、M2Mプラットフォームと言われる。マッチングをP2Pで行うのは、セキュリティ上危険でもあるので、クラウド上にバーチャルエージェントを配置し、マッチングができたら①認証、②トランザクション管理、③課金、を行う機能を有している。P2Pは、たとえば「25円で500Wの電力ありますか?」に対して「30円なら」とか「大阪にはあります」とか、「10:00から」に対して「11:00でよければ安く」といったあいまいなエージェントのクエリー応答が可能である。人間の世界では当たり前だが電力コントロールの世界もこのようになる。

図2

技術を詳細に説明するのはやめよう。この電力の売買を行うマーケットは、M2Mプラットフォームと呼ばれる。皆さんが使われている楽天を考えてみよう。ある人が売りたいエレキギターをオークションで入札して買った。一番安いギターをできれば送料がかからず(取りに行ける距離)買いたい。できるだけ高く売りたいという人がマッチングした。お互いに知らない人であり、お金を払うのも、ギターを送るのもちょっと躊躇する。そこで、先のM2Mプラットフォームでは、電力の売買をマッチングさせ、実際の発電/消費をモニターして、各々チャージングする。つまり、電力を「買うのはEVNO」「売るのはEVNO」のつもりで取引をしているが、実際EVNOは、電力を売買するのではなく、マッチングの管理のみを行っている。今回はエネルギーであったが、将来は、コンテンツ、センサ情報、計算機資源等、あらゆるM(マシーン)のトレードが行える。つまり、センサ(街頭モニター)により、客足の予想と在庫を決めるコンビニに対するコンサルティングをしたい人がいたら、センサ使用量を0.1円/1回といったように課金することも可能かもしれない。これらは、通信やICTの技術以外にも、ビジネスや法律、さらには政策といった新しい「結合」を必要としている未来である。

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