商品は競争優位の固有技術がなければ市場から淘汰されます。しかし、競争優位の固有技術があれば必ず生き残れるわけではありません。高い管理技術がなければ競争優位の固有技術を生かすことができず、製品は市場から淘汰されるのです。
100年前に世界を変えた製品が1つありました。1500万台も売れたT型フォードです。すごい車ですが、すごい固有技術が使われたわけではありません。使われたのは画期的な管理技術である3S、すなわち標準化(standardization), 専門化(specialization), 単純化(simplification)でした。その集大成が世界ではじめてコンベヤを取り入れたデトロイト・ハイランドパーク工場の組み立て生産ラインです。生産効率は何倍も向上し、従業員の給与は2倍に、車の価格は半分になり、フォード社の従業員は誰でも車を購入できるようになったのです。いわゆるモータリゼーション時代の到来です。このように、管理技術は市場競争においては必要不可欠な技術であり、経済がグローバル化している現代社会においてはますます重要になっています。
管理技術はテーラー(F. W. Taylor、管理の父であるとも呼ばれる)が著した「科学的管理」の中で初めて使われた用語です。テーラーは固有技術も大事であるが、管理技術も大事であり、管理技術を用いて生産効率を上げれば会社も労働者ももうかり、従って労使紛争も防ぐことができ、企業経営に多面的に貢献できることを明らかにしています。
テーラーはアメリカ製鉄会社(ミッドベールスチール)でズク(銑鉄)運びの効率に関する研究を行ったことがあります。当時のマネージャたちは重いズクを持った時にはゆっくり歩き、何も持たないときには早く歩くように労働者を監視していました。テーラーは様々な実験を通じて多くのデータを採集分析し、重いズクを持ち上げたらできるだけ早く歩き、手ぶらで戻るときはできるだけゆっくり歩くと効率が高くなることを発見しました。手ぶらで戻るときに筋肉疲労を十分回復させながらズク運びをしたため、1日のズク運びの総量が多くなっただけでなく、肉体的にも毎日強くなっていたのです。労働者は高い給与と健康を手に入れることができ、会社は支払った給与以上にコストを節約できたため、会社の利益は多くなり、労使紛争も起きなかったのです。
近年のビジネス競争では品質やコストの競争に加えて時間競争が重要になっています。時間競争は製品開発周期を表すイノベーションサイクルと製造販売周期を表すオペレーションサイクルで構成され、イノベーションサイクルを短縮するためには固有技術を生かす新製品開発の管理技術(Technology on Technology)が重要であり、オペレーションサイクルを短縮するためには製造時間を短縮するだけでなく、調達と販売時間を短縮するためのサプライチェーンマネジメント(SCM: supply chain management)が重要になっています。例えば、調達や販売の輸配送において、高価で早い輸送機を使用して輸送時間だけを短縮するよりは、輸配送における各種滞留時間や遅れをなくして出発地から到着地までの総時間を短縮したほうが経済的である場合が多くあります。そのためには、出荷先と入荷先が互いに情報を共有して輸配送活動を同期化し、最適なスケジューリングを行うことが求められます。管理技術がなければこのような最適なスケジューリングはできず、固有技術で勝てる会社が管理技術で負け、市場から淘汰される可能性が高くなるのです。
このように、管理技術は企業競争力の基盤であり、グローバルビジネス競争に勝つための武器でもあります。技術で勝ってビジネスで負ける企業にならないためには、管理技術を徹底的に研鑽する必要があるのではないでしようか。

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