さまざまな生命現象の「場」である細胞を普通の顕微鏡で覗いてみても、その中でなにが行われているのかを知ることはできません。いま見ている細胞で何が行われているのかを知るためには「見える化」技術が必要となります。細胞生物学の分野では、「百聞は一見に如かず」、細胞の中で起きている生命現象をリアルタイムにイメージでとらえる試みが広く行われてきています。2008年にノーベル化学賞に輝いた「緑色蛍光タンパク質」もそのような「見える化」に使われています。
私たちの研究室では細胞を「見える化」するためには、種々の蛍光色素やタンパク質を用いた研究を学内外の研究室と共同して進めています。例えば応用化学科の鈴木孝治先生の研究室と共同して、細胞内のMgイオンを「見える化」することに成功しました。Mgイオンは種々の生理作用を担う重要なイオンであるものの、いつどんなときにその細胞内濃度は変化するのかというような基本的な細胞生理メカニズムは従来不明でした。この新しい蛍光色素によりパーキンソン病を含む種々の疾病とMgとの関係が明らかになるものと期待しています。
また最近では細胞内の情報伝達分子を可視化する技術の開発を進めています。細胞内ではセカンドメッセンジャーと呼ばれる種々の情報伝達物質が複雑な時間・空間パターンを織りなし、複雑で多様な生命現象を制御しています。私たちの研究室では複数の細胞内セカンドメッセンジャーを可視化するための新規な方法を開発し、拍動している心筋細胞内のサイクリックヌクレオチドとカルシウムイオンの異なる応答を世界で初めて全く同時に「見える化」することに成功しました。
これらの「見える化」技術を駆使して、細胞の中では何が起きているのかをわくわくしながら調べています。伸長している神経細胞の先端ではどのように舵取りがされ、目的の神経細胞と結合するのかなど、生物学・医学の重要な課題を明らかにできるのではないかと期待しています。

心筋細胞は収縮期に細胞内カルシウム濃度(Ca)が上昇しますが、環状アデノシンヌクレオチド(cAMP)濃度は変化しません(左4枚の図、赤みが強いほど高い濃度であることを示しています)。一方細胞内cAMP濃度を上昇させる刺激を加えると、cAMP濃度上昇に伴い収縮時のCa濃度が上昇します(右4枚の図)。Niino Y, Hotta K, Oka K (2009) PLoS ONE 4(6): e6036.より改変。

細胞の「見える化」の一例
細胞の形を作る細胞骨格を赤、細胞内小胞を緑、核を青で示しています。

神経細胞様に分化させたPC12細胞中のMgイオンの可視化像
明るさの明暗で細胞内のMg濃度分布がわかります。

心筋細胞の収縮に伴う細胞内セカンドメッセンジャーの同時可視化

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