背骨は、椎体(図1)と椎間板が積み重なっています。骨の表面は緻密な皮質骨からできていますが、その内部は図2に示すスポンジ状と表現される多孔質な海綿骨からなっていて、その空洞部は大切な骨髄です。海綿骨は、マイクロCT装置で観察すると、図2のように太さ150μm(※)程度の骨梁が立体的に連なったネットワーク構造をしています。

(※)μm(マイクロメートル)は1000分の1ミリ

図1 ヒト椎体

図2は、骨がスカスカになり、骨折しやすくなる骨粗しょう症の腰椎海綿骨です。この例では、海綿骨領域の骨密度はわずか7%程度です。骨の役割の一つは、体重を支え、運動時にかかる力に耐えることです。マイクロメートルオーダーでも同様に、骨梁が荷重の一部を担っています。図3は、体重を支える役割を担う骨梁を青色で示した計算結果です。

図2 骨粗鬆症の椎体海綿骨

図3 体重を支える役割を担う腰椎海綿骨の骨梁構造の計算結果

無重力の宇宙では骨強度が低下することが日本人の宇宙ステーション長期滞在の折りにも話題になりましたが、骨密度だけでは説明できない「骨質」の評価が課題となっていて、力学を考える骨の医工連携研究は、骨粗しょう症の骨折リスク予測や予防・治療薬の効果の評価などにつながります。

また、歯列矯正治療でおわかりの通り、顎骨も力学と関係が深い骨です。図4に示すように顎骨にも海綿骨は存在します。図5は、歯を失った場合の治療法の一つである歯科インプラントから海綿骨にどのように力が伝達するかを計算した結果で、インプラント周辺骨梁の役割や骨代謝について新しい知見が得られています。

図4 下顎骨中の海綿骨

図5 歯科インプラントから周辺骨梁に伝達する力の計算結果

さて、歯科インプラントを埋入するには顎骨海綿骨内にドリリングするのですが、顎骨内あるいは周囲に存在する血管や神経を傷つけないように注意が必要で、レントゲンやCT写真だけではわからない「骨質」を反映した手術では、医師が手で感じる反発力が決め手となります。ゴッドハンド(神の手)を持つ名医が手術中に感じている力覚を言葉で表現し、伝授するのはとても難しいことです。そこで、ドリリング中の反発力を計算で予測し、ゴッドハンドの感覚を体感できるドリリングシミュレータの開発も行っています。シミュレータを用いた模擬体験を通じて名医に学ぶことができれば、医療安全の確保へ向けた大きな進展が期待されます。

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