結晶の形と聞いて、皆さんはどのようなものを頭に思い浮かべるでしょう。水晶やダイアモンドのような平らな面で囲まれた、すっきりした形ですか。それとも雪のような六本の腕に細かな横枝のある、複雑な形ですか。結晶と一口にいいながら、何故このような形の違いが起きるのでしょう。
このような結晶の形の多様性は成長中に見られるもので、平衡ではない状況でどんな状態が選ばれるかという一般的問題の一例です。私たちの研究室では、こういった非平衡条件下での状態選択の問題を、理論的に理解しようとしています。また、その理論の正当性を検討するのには、計算機によるシミュレーションを用いています。
例えば溶液の中で結晶を成長させた時のシミュレーションでは、成長条件を変えると図1のように多様な形態が実現されます。そして、これらは実際の色々な結晶の形に対応しているのです。
図1:溶液中を拡散してくる原子(白)が集まってできる結晶の様々な形。右上から時計回りに、多面体結晶、骸晶、樹枝状結晶、フラクタル結晶。色は時間経過を表している。
このようにして形態決定の理由が理解できると、形の制御に役立てることができるでしょう。例えば、現在の情報化社会を支えているのは半導体表面の高度な微細加工技術ですが、外から細密加工するには限界が近づいているといわれています。その代わりに、原子自身が自発的に表面微細構造をつくれないかと、結晶表面形態の自己組織化の基礎研究が進められています。(図2)
図2:(b) 結晶表面での段差(ステップ)の示す不安定性。(a)一本のステップの蛇行と(b)沢山のステップの束ねあい。
また、結晶の中には、構成要素である原子や分子は対称性が良いのに、結晶として組みあがると右手型と左手型という二種類の構造を持つものがあります。この二つの結晶の形は、お互いに鏡に映したときのものになっていて、例えば水晶がそうです。このような左右の対称性は、生命を作っている有機物でも見られます(図3)。しかし何故か地上の生き物では、アミノ酸は左手型、糖類は右手型しかありません。右手型の結晶と左手型の結晶を作り分ける方法の理解が、地上の生命の起源と結びつくことになるかもしれません。
