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システムデザイン工学科(開放環境科学専攻 修士課程1年【※】)

ベルギー・The International School of Brussels出身

海外の高校から慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科という新たな学びの世界に飛び込み、インターナショナルスクールで鍛えられた語学力と論文スキルを強みとする彼女は、住宅性能についての実証実験に打ち込む日々を送っています。新しい考えや手法をどんどん試し、積極的に取り入れ、結果を出していくというのが彼女の研究スタイル。「今、とても研究することが楽しい、将来も研究し続けていきたい」と語ります。そんな意欲的な学びの姿勢はどこから生まれてくるのでしょうか。そして、彼女が目指すものとは…。

【※】インタビュー時点(2018年9月)の在籍学年です。

海外生活から日本へ。
しっかりと研究に打ち込みたい。
そんな願いを叶える場所。

高校時代は海外で過ごされたそうですが、どんな学生生活でしたか?

家族の仕事の関係で、中学3年から高校卒業までベルギーのインターナショナルスクールで学んできました。日本の授業とはだいぶ違っていて、レポートやプレゼンテーションの課題が多く、全ての教科でレポートを書かなくてはいけません。毎回のレポート提出にプレゼンテーション、中間テストもありますし。ボランティアの時間も決まっていて、勉強以外の活動もしっかり取り組まないと卒業できないようなプログラムになっているんです。学校の授業は大変でしたが、受験勉強や卒業試験が本格的になる高校3年までは、バイオリンの個人レッスンを受けたり、吹奏楽部で活動したり、趣味の音楽にも時間をかけて取り組んでいましたね。

そうした経験は、大学での学びに活かされたのでは?

大学の研究で調べ物をする時に、情報系や環境系、さらにはIEEE【※】などさまざまな論文をよく読むのですが、ほとんどが英語の論文なので海外生活で培った英語が役立っています。また、読むこともそうですが、論文や研究発表も私の強みになっていると思います。人前で発表することや発言をする姿勢はインターナショナルスクールの授業では重視されるので、鍛えられましたね。

【※】アイ・トリプル・イー。米国に本部を持つ電気工学・電子工学技術の学会。

なぜ、海外ではなく、日本の大学を選んだのですか?

私の場合、中学2年生まで日本にいましたし、日本での生活の方が長いので、ちゃんと日本語で勉強したいという思いがあって。家族はそのままベルギーにいますが、私だけ日本に戻ってきました。
大学はウェブサイトを使って調べました。あとは、日本人の先輩や先生からいろいろ情報を聞いたり、相談したり。先生や両親から「帰国子女だと“国際〇〇コース”とか、お洒落な名前がついた学部を選ぶのも選択肢の一つだけど、理工学の勉強をしたいのならちゃんと研究できる環境を選んだほうがいいよ」という貴重なアドバイスを受けました(笑)。

慶應義塾大学理工学部に決めた理由とは?

「学門制」が決め手でした。私が理工学部を志望したのは、理系の方が得意だったからというのが主な理由で、専門分野の知識も不足していたし、具体的に何を勉強したいのか自分の中に明確なものがなかったんです。慶應義塾大学理工学部では、入学後に授業を受けてから専門分野や学科をしっかり選択することができます。それに、慶應義塾大学は有名な大学ですし、全国から優秀な人たちが集まってくる。そういう人たちと一緒に勉強できるというところにも惹かれました。

モチベーションも様々。
いろんな才能が集まる環境で
刺激を受けながら学んでゆく。

実際に入学して、学校や学生にどんな印象を持ちましたか?

AO入試や指定校推薦、一般入試で入ってくる人、私のような帰国子女…慶應義塾大学にはさまざまなバックグラウンドの人たちが集まっています。それぞれいろんなモチベーションを持ち、勉強や研究の取り組み方も多様だと思いました。また、コミュニケーション能力が高い人が多く、専門が違っていても熱心に研究の話を聞いてくれ、アドバイスしてくれたり。入学してからいろんな人に出会いましたが、特に刺激を受けたのは、高校時代ロボコン【※】に出場していたという絵に描いたような機械系の人です。実践経験も知識も豊富で、私が学んできたこととは全然違うんだなと。制御の授業を違った視点で受けられるのを羨ましく思いましたね。

【※】「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト」

これまでで一番印象に残った授業はなんですか?

「システムデザイン工学基礎演習」ですね。機構の動きを仮想空間で表現するゲームをチームで作成しました。機構、回路、プログラムを作り、ロボットを制作したことで、学んできた理論を理解し応用することの面白さを実感しました。実際に自分でプログラムを書き、機構を動かせたのも良かったです。自分に自信が付いて、情報系の研究室を選択するきっかけになりました。

システムデザイン工学科に進学した理由はなんですか?

理工学部で建築が学べるのは、システムデザイン工学科だけなので選択しました。もともと建築をやりたいと思っていたんです。海外にいた時にいろいろな家に住んでいたので、建築は自分にとって身近なテーマなので、勉強したらきっと面白いんじゃないかと。建築以外にも制御、電気、機械や熱、流体など幅広く学べるのもこの学科の魅力だと思います。普通の建築学科とは違った研究ができるという期待もありましたね。

新しいことを次々と試したい。
新しいものを創りたい。
そんな思いが研究を面白くする。

現在、どんなことに打ち込んでいますか?

情報系の西宏章研究室に所属し、スマートコミュニティの実証実験を行っています。スマートコミュニティとは、“町や都市のインフラをスマート化して、その地域に密着した融合的なサービスを提供する”という取り組みです。この実験で、私は主にデータ解析を行っています。研究成果を発表する機会も多く、学会発表や論文誌に投稿もしています。

実証実験とは。具体的にどんなことをしているのでしょうか?

実証実験は、さいたま市で行っています。今、さいたま市では省エネリフォーム促進を目的とした「グリーンニューディール事業」に取り組んでいます。実験に協力していただいているのは、市内にある家庭向けエネルギー管理システムHEMS(Home Energy Management System)【※】を構築するエコ住宅のご家庭です。協力をいただいている企業にセンサを設置・設定してもらい、電力使用量や温度、湿度、照度、CO2やPM2.5などのデータを取得して、蓄積したデータを解析します。データ解析で、様々なテーマの“推測の研究”をすることができるんです。例えば、使っている電力量からどんな人が住んでいるのかとか、どんな機器を使っているのかとか。私の場合は、住宅性能の推定がテーマで、具体的には断熱の性能値がいくつになるのかを推定する、ということをやっています。現段階ではデータ解析が中心ですが、この研究の目的は“住宅のエネルギー消費の効率化を行う手法を提案する”ことです。

【※】HEMS(Home Energy Management System)。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム。

どんな時に、その研究の面白さ、楽しさを感じますか?

新しいことを試す時ですね。例えばデータ解析をしようという時、新しい解析の手法を試したり、新しいアルゴリズムを考えて組んだりするのが楽しいです。実測しているデータはノイズが多いので、きれいなアルゴリズムを組んでも、モデルを工夫しなければ、なかなかいい結果が出ないんですよ。「いかに優良なモデルを作って現象を表現するか」というのが大切で。その課題解決に向け、勉強して、考え、新しいこと試して…という過程がすごく楽しいですし、うまく結果に結びついた時は嬉しいですね。今、研究がとても楽しくて、楽しいからもっと研究をやっていきたいというモチベーションなんです。将来も、こんなふうに試行錯誤を楽しみながら研究し続けていける仕事に就きたいと思っています。

インターンシップに参加されるそうですが、そのきっかけとは?

9月に3ヵ月間のインターンシップで共同研究先のフランスの研究機関に行く予定です。所属している研究室から毎年、何人か参加するので私も紹介していただきました。今回のインターンシップは、英語を強化するいい機会になると思っています。海外生活で培った英語力は私の強みなのですが、今後研究を進める上ではまだ足りないと感じていて。英語だけの環境で、しっかり自分で研究し、結論を出すという訓練になるんじゃないかと思っています。
理工学部には、外部の研究所や企業と共同研究している研究室が多く、インターンに参加する学生は多いです。学外発表の場などもあり、外部との関わりが多いのはメリットですね。やっぱり自分の研究を人に見せることが重要で、フィードバックや評価をもらわないと、いいものになりません。自分の中だけで完結してしまいますから。

将来のビジョンとは。どんな仕事に就きたいですか?

エンジニアとして、新しい製品やサービスの開発に取り組みたいと思っています。私は、既存のものを活かすというより、新しいものを創りたいという気持ちが強いようです。今、データ分析について勉強しているんですがAIやIoTの発展がめざましく、今後10年くらいは主流になっていくと想定しています。AIやIoT分野で何か新しいものを創っていけたらいいですね。そのためには、データ分析やモデリングに関する知識をもっと深め、実装力を磨くことが必要だと考えています。研究室内はもちろん外部の人とのディスカッションや、研究発表や輪講、学会発表などの機会をこれからも有効に活かし、新しい知識や技術を身につけていきたいと思っています。

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