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物理学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

東京都・私立品川女子学院高等部出身

一冊の科学雑誌から膨らんだ宇宙研究への憧れの気持ち。部活に打ち込みながら、苦手意識を克服して理系の道へ、そして慶應義塾大学理工学部へ。興味のおもむくまま、自分が楽しいと思える道を進んできたと笑い、今は地球の裏側チリの天文台から観測データを受け取り、遥か遠く離れた銀河 NGC1068 へアプローチする日々を送っています。憧れを自分のものにしたエンジンは持ち前の好奇心と実行力。サークルと勉学を両立した大学生活、常に4700万光年彼方の銀河とともにある研究生活の歓びなどを伺いました。

【※】インタビュー時点(2020年11月)の在籍学年です。

一冊の雑誌が開いた、
宇宙への好奇心。
理系転身を果たし、物理学科に。

どのような高校生活を送られたのですか?

中学から始めた部活動の体操競技に夢中の日々でした。男子の体操競技をオリンピックなどでご存知の方も多いと思いますが、女子も同じく平均台や鉄棒といった器械を用いて演技を行い、技の難度や美しさを競うスポーツです。そのため、毎日バク転したり、宙返りしたりの高校生活でした(笑)。身体一つで取り組む競技なので、練習や筋トレ、自分の頑張りに比例するようにできる技が増えるのが面白くて、朝練に夜練、土曜練……と部活動が中心でした。学業に関しては、成績が悪ければ部活が原因とみられますから、競技を頑張るためにも文武両道を掲げて勉強も疎かにしないと決めて過ごしていました。とはいえ多くの時間を部活に割いていましたので、時間との勝負です。練習の合間や授業の休憩時間といった5分、10分の隙間時間を無駄にせずにコツコツ勉強していました。

最初から理系に進もうと考えていたのですか?

実はもとは数学や物理に苦手意識があり、文系寄りでした。そんな私が理系に進もうと考えたのは宇宙物理学に興味をもったことがきっかけです。中学校の図書室でふと手に取った科学雑誌で「ブラックホール」や「パラレルワールド」の記事を目にして……。そこには私の好奇心をかき立てるテーマが、ロマンあふれる文章と美しいビジュアルで語られていて、それを読みふけるうちに、次第に記事に書かれている内容をきちんと理解したい、知りたいと感じるようになってきたんです。宇宙現象ってとにかく不思議なことばかりですから。そして、そもそも遠く離れた場所で起きていることをどう研究しているんだろう?と宇宙で起きている事象、その向こうにある研究のプロセスを知りたいという想いが湧いてきました。文系への進路選択も捨てがたかったのですが、高校1年生の終わりに理系の道を選択しました。

理系転向者から見た理系科目を勉強するコツ、理工学部の魅力を教えてください。

私の場合は「繰り返しと積み重ね」です。時間を決めて参考問題や過去問題を繰り返し解いて、志望校のパターンを体得していきました。スマートとは言えないかもしれませんが、元々やればなんとかなると考えるタイプで、意外となんとかなりました(笑)。たとえば慶應義塾大学の理工学部は受験に物理・化学の両方が必要なものの、傾向をつかむことができてからは大変には感じなくなりましたね。勉強を続けるにはモチベーションが大事だと思いますので、自分が描く将来の大きな目標と、そこに至る細かな目標達成のステップがあればベスト……ですが、入学前にやりたいことがそこまで確信できないという側面もありますよね。私自身、宇宙物理学を学びたいという思いはありつつ、生物系・情報系の分野も面白そうと揺れる部分もありました。
慶應義塾大学に魅力を感じたのは、そんな迷う気持ちに応え、学生の可能性を広げてくれる教育体系でした。理工学部は「学門制【※】」という独自のスタイルをとっていて学部1年生で理系分野全般を広く学んだ上で専門分野を選択して進めるので、自分の適性や進みたい方向性が考えやすいんです。私は、結局は当初から心にあった宇宙物理学を専門に進みましたが、幅広い分野を経験して比較検討できたからこそ、学びたい分野の輪郭が明確になり専門を決めることができました。

【※】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

多様性のある環境。
文武に充実した学部生時代が、
可能性を飛躍的に広げてくれた。

入学前と入学後で理工学部に対するイメージは変わりましたか?

大学全体では華やかな人が多いというイメージ、一方で理工学部は勉強に真剣な人、真面目な人という想像をしていました。実際に入学しても理工学部のイメージは大きく変わりませんでしたが、さらに加わったのが面白い人というイメージです。たしかに真剣で真面目なのですがその対象は勉強ひとつに限らず、自分で組み上げたシステムのプログラムに名前をつけて愛でているようなユニークな人から(笑)、部活に打ち込んでいる人、将来の仕事に関連したアルバイトを夢中でやっている人までさまざまです。勉強や研究に真摯に取り組みながらも学問ばかりではなく、型にはまらず流されず、自分をもって興味のあることに取り組んでいる人が多いと感じました。

物理学科の魅力、面白かった授業を教えてください。

一番に思い浮かぶのは少人数だということでしょうか。1学年50名ほどと他学科より人数が少ないため、教員や学生同士の距離も近く、深く学べる環境がありますね。また、多様な人が揃っていましたから、同級生の研究分野も視点も、進路の選択もさまざま。その多様性が一緒に学生生活を送る面白さにつながり、学業面でもプライベートでもずいぶん刺激を受けました。
授業でいちばん面白かったのは実験です。ホログラフィやレーザー光、アナログ回路……いろいろな実験は本当に楽しかったです。物理を座学で学ぶのとはまた違う、現象が自分の手で確認できる面白さがありました。

学部時代、研究以外に打ち込んだことはありますか?

学部時代に所属していた競技ダンス部というサークル活動です。競技として社交ダンスを行うものですが、競技自体の格好よさに夢中になりましたし、そしてそれ以上に学部を超えた人とのつながりができたことがとても大きかったです。プロになることを目指してひたすら努力する人、真剣に競技を研究する人、常にサークル全体のことを考えて行動する人などに出会うことができました。多様で素敵な人が多かったので、そんな人たちと一緒に過ごせたことは幸せそのもの。ずっと付き合える友人と数多く出会えましたし、得がたい時間でした。

データが物語る現象に目を向け、
そのむこうで起きている
真実に迫っていく。

現在、どのような研究に取り組んでいるのですか?

宇宙の構造を研究する岡研究室に所属しています。研究分野は「電波天文学」、研究テーマは「遠方の銀河における特異分子雲の探査」です。遠方の銀河というのは私たちが暮らす天の川銀河ではなく、 NGC1068 という銀河のことで、地球からの距離は4700万光年もあるんです。この遥か彼方の銀河のことをどう研究するかというと、電波望遠鏡で宇宙を観測している天文台を利用して観測データを入手し、そのデータの数値から宇宙空間に分布する分子構造をつかみ、その構造から宇宙で生じている現象を推測・検証していくんです。私の研究では一酸化炭素分子の様子から NGC1068 に特徴的な物理量をもつ分子雲(分子の塊)が存在しているか、また存在しているとすれば何に起因するものなのかを調査しています。4700万光年も離れた NGC1068 の観測にはかなりの設備が必要なので、チリの天文台のデータを利用させてもらっています。
実際に行くことができない銀河研究はデータがすべてですから、パソコンがつながっていればどこでも研究ができます。ずっとパソコンのモニターとにらめっこで、人からは何をしているのかと思われるかもしれませんが(笑)、研究によって異なる銀河間に共通する宇宙の普遍性がわかるかもしれません。興味をもったことを、とことん学べるのは本当に幸せで、毎日研究に没頭しています。

学部時代、大学院時代の研究生活を通して、心に残っているエピソードはありますか?

先輩方の研究で国立天文台野辺山の電波望遠鏡を利用する際に、そのサポートをする機会に恵まれたことです。研究計画に従い天文台が電波望遠鏡を動かして観測を行うのですが、その様子を研究室に泊まり込んでオンラインで夜通し観ることができました。いつも研究に利用するのは天文台のアーカイブデータだったので、実際の観測作業を見たのはそのときが初めてでした。パソコンに映るのは動く電波望遠鏡やリアルタイムで進められている観測作業、宇宙のデータを取得しているその姿で、宇宙研究のプロセスを知りたいと理系に進んだ私にとっては夢がひとつかなった瞬間でした。
もうひとつ思い出深いのは、研究対象の銀河の観測データを初めて自分のパソコンで表示したときです。銀河の分子ガスの分布や速度などを撮影した画像なのですが、数千万光年先で起きている現象を映したデータが今まさに自分の手元にあり、それを自分で解析できるのが不思議であり、光栄であり、とてもうれしかったです。そのときの気持ちは、今でも忘れられません。

今後はどのような進路を考えていますか?

修士課程修了後は一般企業への就職を考えています。航空や宇宙に関連した仕事を希望していますが、具体的な情報収集や検討はこれからです。自分の可能性を限定せずに視野を広くアンテナを立てて、自身のやりたいことやできることと、企業や社会が求めることの接点となる場所を見つけていこうと思っています。

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