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物理学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

千葉県・県立千葉高等学校出身

小学生のときは、夏休みの自由研究が嫌いな子どもでした。「何もない(ゼロ)から考えることが苦手」と言う反面、「テーマを定めて研究を突き進めると次々とアイデアが浮かんで、研究が楽しい!」と興味のある分野に邁進する一面もあります。学科選択時には理工学部の中では非常に希な「学門越え」を経験し、物理学科に進学。修士課程の大学院生なった現在は国際学会での発表や論文制作に励み、忙しい日々を送っています。物理学の研究に惹きつけられる背景には、どんな想いがあったのでしょうか。

【※】インタビュー時点(2019年7月)の在籍学年です。

じっくりと自分の進路を
見極めた学部1年生。
学門の枠を飛び越え物理に転身。

高校生活は勉強と部活の両立をどのようにしていましたか?

高校時代は野球部に所属していて、ほぼ毎日部活動に明け暮れていました。平日は部活が終わって帰宅するのが19〜20時。土日も練習や試合があって、勉強にかける時間はかなり限られていましたね。だからこそ、逆に少ない時間で効率よく勉強しようと意識しました。部活の疲れでどうしても眠くなってしまうので休み時間に10分程度の仮眠をとって集中力を高めたり、通学の電車の中でも勉強したり……。あとは受験に必要な数学・物理・化学は塾でしっかり勉強して、学校のテストは授業の中でしっかりと対策をしていくなど自分なりの勉強法を見つけていました。本来学ぶこと自体には積極的だったため、理数系の受験には必要のない科目、たとえば社会の授業なども教養として話がおもしろかったので、真剣に取り組んでいましたね。

慶應義塾大学を選んだ理由はなぜですか?

中学生のころから数学や理科が好きだったので、理工系に進むことに迷いはありませんでした。けれども具体的に理学、工学のどちらに進みたいのか、またその中でも学科をどうするかまでは高校生の段階では決めきれていませんでした。そのため「学門制【※1】」を導入している慶應義塾大学に魅力を感じました。当時は詳しく調べもせず、先入観で「工学系、例えば機械やシステムデザインなど、そういうジャンルがおもしろそうかな」と思い「学門4【※2】」で入学したのですが、学部1年生のときに工学系よりも物理現象を解明する物理に興味を持ちました。量子力学や統計力学、相対性理論のような現代物理学を真剣に学びたくなったため、「学門越え【※3】」により、学部2年生から本来「学門4」からは進学できない物理学科に進学しました。思い切った決断でしたが、学部1年生の間にじっくり進路について考えられたことは、僕にとってはすごくよかったです。

【※1】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。

【※2】学門4…2015年度入学当時に、機械工学科・システムデザイン工学科・応用化学科・管理工学科の4つの学科に進学可能であった「学門」。2020年度入学者からは、各学門の名称と構成が変更されます。

【※3】学門越え…「学門」を越えた学科配属。2019年度入学者まではごく少数の学生に例外的に認められていましたが、2020年度入学者からは各学科約5名まで「学門越え」が認められるようになりました。

学ぶだけの理論はつまらない。
実験して、考察して気づいた
物理学ならではの、おもしろさ。

工学系から物理への「学門越え」。物理に興味をもったのはなぜですか?

物理の研究は、仮説を立てて実験して、結果について物理的な考察を行うというプロセスがあります。独自に出した仮定に対して、理論的な式を立てて、実験して測定して、結果がピタッとはまったときの楽しさは、物理ならではの面白さだと思います。今の学科では物理の理論を学んだり、実験装置や測定回路の設計などのスキルを身につけたり、数値シミュレーションを勉強したりと、多くのことを学べます。僕のように機械や工学から物理への「学門越え」は珍しく、当時周りからは結構驚かれたのですが(笑)、僕の中で後悔はありません。

物理学科の特徴を教えてください。

物理学科は1学年の在学生数が40~50人程度と他学科に比べて少ないので、学科全体で仲が良いのが特徴だと思います。教員一人あたりの学生数が少なく、手厚い指導が受けられることも魅力だと思います。また、研究室に助教がいてくださるので、気軽に研究の話をできる環境も良いと思います。授業や研究では「結果に対する物理的な意味、考察」や「物理的におもしろい研究」が求められるので、「結果を求めて終わり」ではなく、一歩踏み込んだ思考ができる人が多いです。

現在所属している研究室を選んだ理由を教えてください。

物理学科というと理論物理のイメージがありますが、僕は理論を学ぶだけではなく、実際に手を動かして実験ができる研究室を希望していました。研究室紹介のときに現在の指導教授である能崎教授が「頑張れば国際学会に行けます」とおっしゃっていたことも印象的でした。「自分の研究成果を、海外の人たちにも知ってもらいたい。」そんな考えから、国際学会への憧れもありました。また、研究室訪問をしたときに、「研究室のみんなが仲良く楽しい雰囲気で、自分に合っているかな」と感じたのも選んだ理由のひとつです。研究室では教授との相性ももちろん大事ですが、先輩からもさまざまなことを教わるので、研究室の雰囲気というのは非常に大事だと思います。

研究の結果を海外で発表。
この経験を活かして
今後もさらなる挑戦を続ける。

現在、どんなテーマの研究に取り組んでいるのですか?

僕の研究分野を「スピントロニクス」といいますが、電子は電荷という性質の他に、回転に対応するスピンという性質をもっています。このスピンをデバイスへ応用することを目指して、基礎と応用の研究をしています。身近なものを応用例に挙げると、パソコンの中のハードディスクがわかりやすいかもしれません。ハードディスクは微小粒子状の磁石のN極S極の向きによって情報を記録しています。従来は磁石の向きの制御には電流(電荷の流れ)を利用していました。これを電流ではなくスピン流(スピンの流れ)を使って微小磁石の制御を行える技術が確立すれば、ハードディスクの読み書きが従来よりも速くなるなど、省電力デバイスとして技術革新が起こせると期待されています。僕の研究では、物体を高速に回転させることで、その物体中にスピン流を生成することをテーマとしています。

学部生時代に思い出に残っているエピソードを教えてください。

国際学会に参加するため、アメリカのワシントンD.C.へ行ったことです。おもしろい研究成果が少しでも出れば、能崎教授は積極的に学会で発表をさせてくれます。僕の場合は学部4年生の4月頃から実験を始めて、ちょうど成果が出始めた時期が国際学会の申し込みのタイミングだったので、初めて参加した学会が国際学会となりました。国際学会は、その名のとおり世界中の研究者が集まって、研究結果を発表したり、発表内容に関して自由にディスカッションしたりする学会です。発表準備に向けて、実験や考察など苦労も多かったのですが、そのぶん終わったときには「海外の人にも自分の研究が伝えられるんだ!」という喜びや達成感が得られました。発表は英語でしましたが、特別な英語の勉強はしていません。専門用語は同じような英単語が使われているので、薄い英語の論文を1冊しっかり読めるようになれば、他も読めるようになると思います。学会で使う英語は準備していったので大丈夫だったのですが、現地の電車や飲食店などで使う日常会話の方が、苦戦しました(笑)

また、研究や勉強以外には高校時代に引き続き、「理工学部體育會【※4】硬式野球部」に所属していました。その活動のひとつ、東京ドームで試合をしたことも印象的です。憧れのマウンドに立ったときには、大学まで野球をやってきてよかったと感慨深かったです。部活の活動頻度は週2~3回ほど。大学生になると運動不足になるため、気分転換やリフレッシュとして部活に入ることもおすすめです。

【※4】理工学部體育會…理工学部體育會は、通称「リコタイ」と呼ばれている団体です。体育会とサークルの中間的性質を持つ団体で、学業とスポーツの両立を目指しています。なお、「理工学部」という名称が付きますが、学部の垣根を越えて、他の学部の塾生も所属できます。

現在、打ち込んでいることを教えてください。

国際学会の発表内容について、国際論文の執筆をしています。初めて取り組む論文ですが、作業している中でとくにおもしろいと感じていることは、実験結果について「どれだけインパクトを感じさせる伝え方をするか」ということです。論文化に向けて実験結果にどのような付加価値をつけて発信するか、教授と2カ月以上ディスカッションしています。結果は同じでも、伝え方によっては掲載する論文誌が変わるので、この作業はとても興味深いですね。新しい理論を立てたり、画期的な実験手法を確立したりして新しい物理現象を発見することはもちろん大事なことですが、得られた結果を意義あるものとして発信することも非常に大事であるということも研究生活で学びました。研究室では物理の勉強、実験スキル、解析スキル、プレゼンテーション能力など、多くのことを身につけることができるので有意義に過ごしています。

修士課程修了後の進路や目標を教えてください。

物理の研究は論文を出すことが最も評価されることなので、まずはきっちり論文をまとめることが一番の目標です。かたちに残るものを残したいと思って大学院へ進学したので、結果をしっかりまとめたいですね。その後は、研究者を目指して後期博士課程に進学するか、企業の研究職に就職するかの二つで迷っていて……。修士課程の間に研究者としてやっていけるぐらいの自信が持てる成果を出せれば、進学も視野に入れています。また同時に、企業の研究職についても調べています。せっかくなら研究室で身につけた技術や知識を活かせるところがいいですね。メーカーの中でも電機部品やメモリを扱う会社など。会社によっては研究職以外に品質管理の仕事など職種も多様にあると思うので、どういう仕事ができるのか企業のインターンシップで経験することから始めようと思っています。

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