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物理学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

茨城県・県立土浦第一高等学校出身

「自分や自分がいる世界は、どんな仕組みで成り立っているか。なぜ、存在しているのか」。そんな疑問を持ち続けてきた少年時代。成長とともに、その疑問を解明したいという思いが高まり、彼は迷うことなく物理の道へ進みました。慶應義塾大学での様々な学びを通し、知見を広げた彼は今、まだ誰も踏み込んでいない未知の分野の研究に挑んでいます。前例がない難しいテーマを自ら選び、可能性を追求し続ける彼の信念とは。そして、彼を突き動かす物理学の魅力とは何なのでしょうか。

【※】インタビュー時点(2018年10月)の在籍学年です。

幼少時から抱いていた
謎の解明を求めて、
物理学の道へと進む。

高校時代は、どのように過ごしていましたか?

テストで忙しかったという印象です。通っていた高校は、定期試験の頻度が高いうえ、毎回の範囲が広く、分量も膨大。授業の予習・復習も多く、とにかく勉強の負担が大きかったです。ただ、勉強以外はかなり自由な学校だったので、好きなこともいろいろ楽しんでいました。山岳部に所属して、みんなと楽しく登山したり、音楽好きなので様々なジャンルの音楽を聴いたり、バイオリンやピアノを練習したり、友人とカラオケに行ったり…。その頃は一応、大学に行って物理の勉強できればいいな、という思いはありましたけれど、それ以外は特に信念はなく(笑)、なんとなく毎日を過ごしていましたね。

物理を学びたいと思ったのは、いつからですか?

幼い頃から、「自分や自分がいる世界は、どういう仕組みで成り立っているか。なぜ、存在しているか。」っていうことが気になって、他のことに手がつかないほどでした。それで小学校の高学年くらいのときに、その疑問を追究できるのが物理学だと知ったんです。「物理をやりたい。そういう事を調べたい。」という気持ちは、その頃からずっと自分の中に一貫してありましたね。今、自分がやっている研究はまさにそういうことで、ドンピシャで。だから研究が楽しくやれているんです(笑)。

その頃、何か物理と接点があったのでしょうか?

僕の地元である茨城県つくば市に「高エネルギー加速器研究機構」という研究所があるんですが、そこでは加速器という装置を使って、宇宙の起源、物質や生命の根源の探求を目的とした研究が行われているんです。自分の家の近所に、その研究所の物理学者が大勢住んでいて、友人を通じてそのような方々と関わることができたというのが大きかったですね。研究所に連れて行ってもらったり、加速器など見せてもらったり。物理に興味を持つ者として恵まれた環境にいたと思います。

大学での刺激的な出会い。
個性豊かな人たちとの関わりが
自分を成長させた。

慶應義塾大学を選んだ理由とは?

WEBで慶應義塾大学の理工学部物理学科について調べました。実績が豊富な教員から丁寧に指導していただけそうだなと感じました。親族に塾員(慶應の卒業生)がいて、進路について相談した時「とても良い大学だ」と太鼓判を押してもらいましたし、高校の先輩にも理工学部に進んだ人が結構いたというのも理由の一つですね。

入学前と後では、大学の印象は変わりましたか?

入学前は「オシャレな人、派手な人が多そう」というベタなイメージを持っていましたが、理工学部に関しては全くそんなことはなかったですね。どの人もみな真面目で、勉強でも部活でも自分の興味がある分野に一生懸命打ち込んでいる気がします。同じ学科でも学部の時から最先端なことをやっていて「これがやりたい」と明確に目標を立てている人がいて、凄いなと思いました。他にも、ロシア語に熱中している人とか、グライダーで空を飛んでいる航空部の人とか(笑)…いろんな人に出会って影響を受けました。大学在学中の自分の成長は、様々な人との関わりによるところが大きかったと思います。これは入学前にはあまり予想していなかったことでした。

今、大学で打ち込んでいることとは?

研究を軸に、ゼミや授業に積極的に参加して、知識の幅を広げる努力をしています。物理は他の様々な分野とつながっています。数学の力も欠かせないし、生物や化学などとも密接な関係があります。研究テーマを拾い上げる力を身に付けるためにも幅広い知識が必要です。
特に、日吉キャンパスに設置されている「Keio Topological Science Project」では、世界中から様々な分野の最前線を走る研究者が集まり、頻繁にセミナーが行われているので、知見を広げる絶好の機会になっています。まだ質問できるレベルにはなっていないですが、研究会の雰囲気に触れることができ、最先端の話や研究者同士の熱い議論が聞けるので刺激になります。これは、他の大学の人から見れば、かなり羨ましいことだと思いますね。
また、大学院生にはTA(ティーチングアシスタント)として学部授業の補助をする機会があります。わかりやすく説明することは難しいですが、学部生とのコミュニケーションは楽しいですし、良い経験になっています。

所属している物理学科の特徴とは何でしょうか?

他人に影響されず、自分の考え方を貫く…そんな独立心の強い人が多いですね。研究室の先輩は、研究をバリバリしていて凄いんですよ(笑)。力強く、諦めずに研究していますし、成果もちゃんと出しています。教員と学生、先輩と後輩の距離が近く、仲が良いというのも特徴ですね。研究室にいる時は物理の話はもちろん、趣味の話や世間話などして垣根なしに盛り上がります。食事や遊びに出かけることも頻繁にあります。学部の卒業式の時に、「この大学に入学して本当に良かった。」と思いました。人間関係が良好で、居心地が良くて。「そのままここに居たい。」という思いもあって、大学院に進みました。

前例がない研究に取り組み、
困難な状況を「勉強」として捉え、
高いモチベーションで挑む。

今、どんなテーマの研究に取り組んでいるのですか?

「相対論的超流動体の流体力学」というテーマで研究を行っています。物質を構成する素粒子「クォーク」と、これに働く“強い力”を媒介する素粒子「グルーオン」は、通常の環境下では、我々の身の回りの物質を構成する原子核という形態で存在しているのですが、温度や密度などの条件によって様々な形態(相)に変化して存在します。僕が取り組んでいるのは、スプーン1杯あたり数兆kgという超高密度におけるクォークの存在形態の解明です。このような超高密度状態は、例えば天体の一種の「中性子星」の内部において実現していると考えられています。
中性子星は遠くからしか観測できないし、内部で何が起こっているのか誰も知りません。その未知なことに対して新たな理論的予言を与える、というのが僕のやろうとしていることです。理論を検証する方法の一つが、原子核同士を加速器でぶつける「重イオン衝突実験」で、将来的に、この実験による超高密度物質の実現が計画されています。新たな理論を構築して誰もやったことのない計算を行うわけですから、難しく、辛いこともたくさんあります。一生懸命計算しても誤りだったということがほとんどですね。たまにうまくいく計算を求めて続けています。日々勉強ですね。研究とは「誰もやったことのないことを、やってのける」ということですから。

大学の学びで習得したこととは。自分にどんな変化がありましたか?

授業では物理学の議論に必要な知識や考え方を学び、研究では未解決の問題・課題の解決に取り組むための手法や姿勢を身に付けることができたと思います。これまで習得した知識や手法、取り組みの姿勢は、この先どんな課題や問題に取り組むことになっても通用すると確信しています。
僕は幼少の頃から「万物はどのような仕組みで存在しているか」という疑問をずっと持ち続けてきたのですが、大学の学びでその疑問を多少なりとも論理的に議論できるようになりました。しかも、それに近いテーマの研究をやっています。これは素直に嬉しいですね。また、幼少時からの疑問から解放されたことで、視野もさらに広がり、新たな課題や面白そうなテーマを探せるようになったとも感じています。

将来は研究者を目指しているのでしょうか?

後期博士課程に進学して物理学の研究を続けるか、他にやりたいことを見つけて企業に就職するか悩んでいます。今は研究を進め、様々なゼミや研究会に参加しながら、自分が研究に向いているか模索しつつ、同時に企業研究している…という感じです。もし就職するとしたら、数学を使った研究をしているので、数学の強みを生かせる金融系とか、証券系とか…。自分の研究テーマと関係がある仕事に就く、という縛りは特に設けていません。いずれにしても、自分が何かやりたくなった時に断念せざるをえない…ということに陥らないよう、広い視野が持てる進路を選択したいと思っています。

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