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情報工学科(開放環境科学専攻 修士課程2年【※】)

神奈川県・私立カリタス女子高等学校出身

小さい頃から変わることなく、絵を描くこと、ものづくりすることに明け暮れていた高校時代。そんないわゆる“美術系女子”は、なぜ慶應義塾大学理工学部情報工学科に入学するに至ったのでしょうか。絵と情報工学。一見するとつながらない二つの点は、彼女の中ではしっかりと一本の線でつながっていました。そのキーワードとなるのは、所属する藤代研究室で研究テーマにしていた「可視化」という言葉。彼女は大学でどんな学びを深め、どんな刺激を受け、さらにこの先どんな未来を見つめているのでしょうか。

【※】インタビュー時点(2018年8月)の在籍学年です。

絵を描くことが好き。
「目に見える成果物」を求めて、
ものづくりができる工学系へ。

高校時代はどんなことに興味があったのですか?

高校時代は絵を描いていましたね。小さい頃から絵を描くことが大好きで、中学・高校では、学内イベントのパンフレットや、学校で定期的に開催されるミサの式次第の表紙の絵を描いたりしていました。高校では漫画研究会に所属して絵を描き、文化祭執行部にも入っていたのですが、その目的も校内装飾に関わりたいから…。勉強については学校の他に塾や予備校にも通って真剣に取り組んでいましたが、勉強以外ではいつも絵を描いていた気がしますね。

どうして絵を描くことが好きだったのでしょうか?

そもそも細かい作業をすることがすごく好きだったのです。昔はあまり絵がうまくなかったのですが、描けるようになってからは自分の思った通りの表現ができることと嬉しくて。周りの人に描いた絵を見ていただいて喜んでもらえると、さらに嬉しかったですね。とにかく、「目に見える成果物」があるものづくりに喜びを感じていました。

では、なぜ美術系の大学ではなく、理工学部に入ったのですか?

自分の将来を改めて考えてみたところ、画家やグラフィックデザイナーを仕事にしたいとは思いませんでした。でも、ものづくりは絶対やりたいと思って。それで工学系の学部を志望したのです。

周囲から受けたたくさんの刺激。
少しずつ変わっていく自分。
広がっていく世界。

工学系の中で慶應義塾大学理工学部を選んだのはなぜですか?

私は指定校推薦で入学したのですが、高校3年生の時に理工学部のオープンキャンパスがあって、そこでいくつかの研究室を見学したのが大きなきっかけになりました。どの研究室に行っても、所属する大学生がとても熱心に、そして楽しそうに研究について教えてくれました。その姿がとても印象的で。また、大学全体がにぎやかで心地よい活気にあふれていて、とても魅力的に感じられました。
それに「学門制」も、私の大学選択には重要なポイントでした。私は工学部志望でしたが、もっと具体的に何を専攻するのかまでは決めかねていたのです。それまで幼稚園からの一貫校に通っていて他の世界を知らなかったので、大学に入学して様々な人たちと関わることで、新しいことやそれまで関心がなかったことに興味が湧いてくる可能性があるのではないか、と自分でも考えていたのです。その点で、学門制はとても私に向いていると思いました。実際に入学してから、授業を受けたり、先輩からお話を聞いたりすることで、刺激を受けることもたくさんありました。大学1年生の1年間に、授業や友人・先輩方との関わりを通じて、もう一度、自分の学びたいフィールドや進路について考えることができたことは本当に良かったと思っています。

周りからはどんな刺激を受けたのですか?

高校まで女子だけの一貫校だったので、私にとっては男子がいること自体が大きな変化でした(笑)。あとは、学生起業している人が身近にいたり、海外の大学に研究留学しに行く人もいたり。全体的に「外に出て行こう」という意識が強い人が多いと感じています。想像していたよりもずっと多様な才能をもつ学生がたくさん集まり、それぞれが自分自身の才能を伸ばすために色々な場所で頑張っているのだと感じます。私も大学入学当初は今いるところが居心地いいので、「外に出て行こう」という考えはそれほど強くなかったのですが、周りの影響を受けて自分も能動的に動いていこうという考えに変わっていきました。

情報工学科での学びには、どんな特徴がありますか?

情報工学科では、私たちが普段の生活で実際に使っていたり目にしていたりするものに関連する研究が多いです。例えば、ロボット、通信、AI、それにゲームなんかもそうですね。今まさに、社会に出てからとても重宝される知識や技術を学ぶことができる学科の一つかなと思います。
プログラミング実習以外でも実践的な内容を含む授業が多くて、実際に自分の頭と手を動かしてものづくりしながら学ぶことができますし、また多くの場合、作った成果物をその目で見ることができるので楽しいです。

一番印象に残っている授業は?

学部3年次に履修した「情報工学実験第1」と「情報工学実験第2」ですね。情報工学科の実験の授業では、二週間に一回教員が替わって、各教員の研究領域に関連する講義や実習をしてくださいました。例えば、CGの作品を作ったり、VRのゲームを作ったり…。いろいろな領域の研究に触れることができてとても楽しかったですし、それに研究室選びの際の参考にもなりましたね。

自分の未来を
“可視化”するために。
留学という未知のチャレンジへ。

所属されている研究室ではどのような研究をしているのですか?

一言でいうと、天文学の分野でCGを利用して天体観測データを「可視化」する研究をしています。広島大学の宇宙科学センターと共同で行っているのですが、「ブレーザー」という天体の観測データを可視化することによって、天文学者のデータ解析を高度化することを目的とした研究です。そもそもブレーザーというのは何かというと、活動銀河と呼ばれる他の銀河よりも非常に明るく輝く銀河があるのですが、その中心にあるブラックホールから噴出される宇宙ジェットを進行方向の正面から見た天体のことです。天文学者は、そのブレーザーの光の傾きや強さ、色の時間変化や相関関係を詳細に解析していくことで、ブレーザーの挙動を分類し、宇宙ジェットに働く磁場の謎の解明を試みています。しかし、日本は天候が安定しないとか、昼間に観測を行うことができないなどの理由で、観測データの誤差がすごく大きかったり、観測ができない期間が存在したりということがあるのです。 私の研究では、そういったデータの曖昧性を解消するために、地球上の別地域で同じ天体を観測したデータと融合することで、仮想的に精度の高い可視化を実現したり、また、長期にわたる観測データの中から天文学者が注目すべき特定の現象を自動的に抽出できるようにして、天文学者のデータ解析の効率化をサポートするといったことをしています。

その研究の楽しさ、喜びはどんなところにありますか?

私たちの可視化ツールを天文学者の方に実際に使っていただいて、それまで分かっていなかった知見が得られたといった声を聞けた時はすごく嬉しかったですね。他にも、広島大学の天文学者の方にご紹介いただいて、お知り合いのギリシャの天文学者の方にツールを利用してもらえたり、実際に自分が作ったものが天文学に少しでも貢献していると実感できるのはとても嬉しいです。 私個人としても、この可視化ツールは「目に見える成果物」なので、小さい頃から好きだった絵を描くことやものづくりの楽しさにもつながっています。このツールの中で、自分が見ていて気持ちいいと思える、納得できる、人に喜んでもらえるCG表現ができたりするのが大きな喜びでもありますね。 研究室では、学会発表だけでなく、他大学の研究室との研究交流会や、海外の同じ領域の研究者の方をお招きしてご講演いただいたり、研究についてアドバイスをいただいたりする機会が多く存在します。論文を執筆したり、自分の研究内容を発表して意見をいただいたりという機会は研究をする上でとても刺激になりますし、プレゼン能力や英語力を養うことができていると感じています。研究漬けの毎日ですが、好きなことを研究しているので本当に毎日楽しいです。

今後はどのような進路に進もうと考えていますか?

私はこの秋で半年早期に修士課程を修了し、慶應の後期博士課程に進学します。後期博士課程では、さらに様々な経験を積むために米国ハーバード大学への二年間の留学を予定しています。留学は高校生の頃からずっと行きたいとは思っていながら、準備も大変だし、お金もかかるし、なかなかきっかけもなかったのですが、吉田育英会様から博士課程を通じて奨学金をいただくことができたので、いよいよ行動に移すことにしました。留学先の研究室の教授は、私の研究領域である科学技術の可視化の代表的な研究者のお一人です。期待も不安もあってドキドキしていますが、留学先での研究活動を通じて可視化に関する知識や技術はもちろん、英語で議論する力もしっかり身につけてきたいと思っています。
さらにその先の将来については、研究を仕事にしていきたいと考えていますが、まだハッキリとは決めていません。大学に残るか、一般企業の研究職になるか、その他の道があるのか。留学の二年間で自分にどんな変化が生まれ、どんな新しい自分が見えてくるのか、楽しみでもありますね。

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