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物理情報工学科(基礎理工学専攻 修士課程2年【※】)

岐阜県・県立岐阜高等学校出身

文武両道の精神を掲げた高校では、少年時代から熱中していたサッカー部で活動。その高校時代に物理の楽しさを知り、慶應義塾大学理工学部へと進学しました。修士課程2年の現在、所属しているのは設立して間もない、柔軟な雰囲気を持つ研究室。そこで研究している有機分子は、次世代型の新規デバイス開発への応用が期待されています。卒業後は人の役に立つものづくりがしたいと語る彼にお話を伺いました。

【※】インタビュー時点(2020年11月)の在籍学年です。

サッカーに打ち込んだ高校時代。
おおらかな校風の中で、
実験の楽しさに触れ、物理の世界へ。

高校生活をどのように過ごされましたか?

母校は進学率の高い高校ではありましたが、文武両道を重視していたため、自分も3年間サッカー部に所属していました。ただ、監督の方針で朝練や過度な練習を強いるようなことはなく、効率的に練習することが推奨されていたんです。そうしたおおらかな雰囲気は部活だけでなく、母校の校風そのものだったように思いますね。先生も個性的で、たとえば地理では Google Earth を使って地形や街並みを見せてくれたり、物理の先生はお手製の実験器具を使ったりと、教科書通りではないユニークな授業をしてくれました。

慶應義塾大学理工学部に進学を決めた理由を教えてください。

高校時代に数学や物理に興味を持ちはじめたのですが、物理の先生が実験を重視する方だったので、物理への興味が強くなりました。頭を使って計算するよりも実験することに惹かれ、理工学系に進みたいと思うようになったのですが、大学受験について意識し始めたのが遅く、やりたいこともなかなか定まらなかったんです。そんな自分には慶應義塾大学理工学部の学門制【※1】が魅力的に映りました。受験時には特に物理を学びたいと思っていたので、当時の学門1(現:学門A【※2】)に入学しました。学部1年を終える頃に学科選びが始まりましたが、学門制のおかげで研究室や先輩方の様子を見てから選べたことは、やはりよかったですね。

【※1】学門制…入試の時点で5つの「学門」のいずれかを選択し、入学後に自分の興味や関心に応じて徐々に学びたい分野を絞っていき、2年進級時に所属する学科を決定する慶應義塾大学理工学部独自の制度のこと。なお、2020年度の理工学部入学者から学門制が変更となり、各学門から進学できる学科が一部変わりました。学門制の詳細は以下のリンクを参照してください。

【※2】学門1…2015年度入学当時に、機械工学科・電子工学科(現:電気情報工学科)・物理情報工学科・物理学科の4つの学科に進学可能であった「学門」。2020年度入学者から、「学門A(物理・電気・機械分野)」に名称が変更されました。

物理情報工学科について特徴を教えてください。

物理情報工学科は、扱っている研究分野の広さが大きな特徴だと思います。自分のように物理現象を追究したり、計測技術・制御技術そのものを研究したりするところもありますし、量子コンピュータなど最先端の技術を扱う研究室もあります。各分野で最先端の研究をされている方々が行う授業は大変興味深く、学びの選択肢を広げてくれます。その分、授業の選択や研究室選びでも迷うことはありますが、選ぶために自分から情報を集めていくことになりますので、その過程でまた世界が広がるというメリットもありますね。
また、物理情報工学科に限らないのですが、理工学メディアセンター(松下記念図書館)の中に先輩の大学院生スタッフになんでも相談できる、「ラーニングサポート」というコーナーが設けてあります。興味がある分野や勉強のことでも気軽に相談することができる場は貴重でした。

ナノスケールの世界を
可視化できる顕微鏡で覗く。
微小な世界の美しさ。

現在取り組んでいる研究について教えてください。

現在は光スイッチング特性をもつ有機分子の光反応について研究しています。特定の光を当てることで構造や性質を変化させるという性質をもつ材料があり、これが次世代型の新規デバイス開発への応用が期待されているのです。(デバイスとは電子部品などの電子装置、機械のこと。)現在のデバイスはシリコン半導体が一般的に使われ、スイッチをオンオフすることで情報を管理しているのですが、シリコンでは微細化するのに限界があります。それに代わるものとして注目されているのがフォトクロミック分子と呼ばれる有機分子群で、成功すればデバイス自体を小さくできるほか、エネルギー効率をよくすることが期待できます。

研究で印象に残っていることを教えてください。

所属する清水研究室では「走査型トンネル顕微鏡」と呼ばれる高分解能プローブ顕微鏡を2台所有しています。実験装置の性質上、2~3週間は連続で装置を使う必要があるのですが、個人が使える時間は限られているため、2ヶ月に1度くらいの頻度で集中して取り組みます。特に今年はコロナの影響で実験の期間も限られてしまい、再開できた際は実験か、睡眠かというくらい究極の状態だったんです。実験は顕微鏡に張り付いてひたすら分子を眺めながら過ごす地道な作業です。はじめはなかなかうまくいきませんでしたが、試行錯誤の末に研究に必要な分子の配列を2週間かけて再現できました。一見簡単そうに聞こえる研究かもしれませんが、自分が思い描いた通りの光反応を実現するには技術が必要です。だからこそ、思い通りの反応が出たときには、その美しさに感動もひとしおでした。

研究以外に打ち込んでいたことはありますか?

学部生の頃に入っていたのが、「カリツォーロシアの会」というロシア語のサークルです。最初は物珍しさから入ったのですが、単にロシア語を勉強するだけでなく、集まってロシアの映画を見たり、ロシア料理を作ったりと文化を体験しているうちにだんだんとはまっていきました。メンバーも個性にあふれていて、言語学を専攻している博識な先輩など、他学部の人との交流も魅力でしたね。夏休みに2年連続でロシアへ約1ヵ月間の短期留学にも行ったのですが、通訳もなく授業もロシア語で行われるため、現地では自分の力で動くことや、人に頼ることの大切さも覚えました。このときに身についた度胸は、その後の研究生活でも思い切りの良さや人に意見を求める姿勢などに活きているように思います。

大学生活で培った対処力や情報処理能力。
卒業後は目に見える形で、
人の役に立つものづくりをしたい。

現在所属している研究室を選んだ理由を教えてください。

一番の理由は、ナノスケールの世界を可視化できる特別な顕微鏡(走査型トンネル顕微鏡)を使っていたことです。トンネル電流という量子力学的な効果を使った顕微鏡できれいなナノスケールの原子や分子を見た際、自分もそんな技術を習得したいと思いました。
清水研究室は設立して3年と新しい研究室で自分が1期生です。そのためか柔軟な雰囲気があることも魅力のひとつですね。清水教授も個性を大事にしてくださる方で、研究テーマを決めるときも得意なことなどを考慮し、適材適所を考えて割り振ってくれます。また、実験系の研究室では珍しく拘束時間(研究時間)を設けず、時間の管理も学生にゆだねてくれたので、研究以外の挑戦をするための余裕もありました。現在は清水准教授の後押しもあり、自分の研究に必要な設備が整っている理化学研究所にお邪魔していますが、研究者や留学生も多い中での研究は刺激も多く、励みになります。

コロナ禍における研究・勉学で工夫していることがあれば教えて下さい。

大学生・大学院生も自粛を強いられ、自由に使える時間が少ないコロナ禍で自分も自粛や分散登校をせざるを得ず、不自由な思いをしました。ですが研究できない間も、できるようになったときに備え、綿密な計画を立てていました。そのように、制限のある中で、研究時間をいかに効率よく進めるか、考え工夫する機会を得たと考えることもできます。今後、すぐにコロナ禍以前の状態に戻ることは難しいかもしれませんが、常に今できることを行動に移すことが大切だと思います。

今後は、どのような進路に進もうと考えていますか?

卒業後は一般企業に就職することを選びました。目に見える形で人の役に立つものがつくりたいと考えたためです。内定をいただいた自動車関係の企業には、異なる分野の人が集まり、グローバルに活躍できる場があります。現在の研究内容と直接関係のある分野ではありませんが、研究室で培った対処力は社会でも活かせると思っています。たとえば、研究をしているとどうしても、自分だけの力では解決できない問題に直面することがあります。そのように行き詰ったとき、自分だけで完結するのではなく、人に相談し、意見を聞いて別の方法を試すなど、円滑に進めるためには人とのコミュニケーションが必要です。大学生活や研究を通して多様な人々と接したことは、就職活動でも、社会に出てからも役に立つと思います。

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