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物理情報工学科(基礎理工学専攻 修士課程1年【※】)

千葉県・県立千葉東高等学校出身

千葉県出身。小学校2年生から野球をはじめ、高校時代は甲子園を目指して部活に熱中。部活引退後に受験勉強を始め、「勉強していて楽しい学問を、大学でも学びたい」と、大学では物理を学ぶことを決意し、慶應義塾大学理工学部に進学する。理工学部では、学部2年次に「物理情報工学科」を選択し、学部4年次からは「安藤研究室」に所属。大学院修士課程に進学した今も、自身のテーマである「酸化銅を用いたスピントルク生成」の研究を続ける。

【※】インタビュー時点(2017年10月)の在籍学年です。

部活にも勉強にも全力投球。
仲間と切磋琢磨しながら
自らの進路を模索した高校時代。

大学に入る前は、どんな高校生でしたか?

高校時代の思い出といえば、なんといっても野球です。公立の進学校だったので決して強豪ではなかったのですが、私たちの代のメンバーは「自分たちで練習内容を工夫して強くなろう」という意識が強く、ほぼ毎日が練習や練習試合でした。私はクリーンナップの選手だったので、少しでも打率を向上すべく日々練習に取り組んでいました。結果として県大会で4回戦まで勝ち進みAシード校に敗退してしまったのですが、楽しく考えながら部活に取り組み、ある程度の結果を残せたことはいい経験だったと思います。もうひとつ印象に残っているのが、交換留学のプログラムを利用して二週間ほどアメリカのデトロイトにある高校に通ったことです。海外の学生に向けて日本の文化や現代の流行などをプレゼンし、交流を深められた貴重な体験でした。

受験勉強はいつ頃から始め、どのように進路を決めたのですか?

高3の7月に高校野球の総体が終わったので、それ以降は勉強に専念していました。同じ塾に通う同期の野球部員がいたのですが、それまでは野球で切磋琢磨していた仲間と、模試の点数などでお互いに競い合うようになりました。参考書の選び方や効率的な勉強法などを話し合ったことも良い思い出ですね。進路を選ぶ時に一番考えていたのは「勉強していて楽しい学問を、大学でも学びたい」ということでした。もともと科目としては数学が好きだったのですが、物理の受験勉強を進めるうちに「あの時習った数式が、ここで生きてくるのか」ということが何度もあり……。科目を越えて真理がつながるような感覚がとても新鮮で、やがて物理に楽しさを覚えるようになりました。その思いが、進路を決める上での大きな指針です。

慶應義塾大学の理工学部を選んだ理由を教えてください。

物理を学ぶことが大きな目的とはいえ、他の学問も決して嫌いではありませんでした。入学当初から専門分野が分かれる大学が多いなか、慶應の理工学部は「学門制」を採用しています。入学1年目に幅広い分野の学問を学び、2年進級時に学科を選択できることは大きな魅力でした。
また、大学の雰囲気が魅力的だったことも慶應を選んだ理由のひとつです。高校の野球部の先輩が體育會硬式野球部に所属していたので、高校生の時に一度、神宮球場に早慶戦を観戦しに行ったことがあります。その時に肩を組んで『若き血』を歌う塾生を見て、学生同士のつながりが強く、一体感のある大学だなと感じました。入学後、2014年春に観戦した早慶戦で慶應が優勝し、私も肩を組んで『若き血』を歌いました。高校時代の私は、自分がこんなことになっているなんて想像もしていなかったですね(笑)。

幅広い分野の学問を学び
積み重ねていくことが
未知のアウトプットにつながる。

実際に入学してみて、大学の印象はどうでしたか?

「学門1」に入学し、イメージ通り幅広く勉強できるということを感じました。ただ、大学になると授業のレベルも上がるので、幅が広い分大変なことも多かったですね。それでも、最も興味のある物理を軸に、多様な分野の知識を大きな視野で学べたことは、大きな財産になっていると思います。また、理工学部體育會の硬式野球部で大好きな野球を続けられたことも、私にとっては収穫でした。授業や実験に加えて部活やバイトと忙しい大学生活でしたが、とてもやりがいがありました。

学部2年次に、物理情報工学科を選択した理由は?

専門分野をより横断的につなぐ物理情報工学科に魅力を感じました。実際に物理情報工学科は、先生の研究内容が多様で、量子力学や流体力学、数値計算、制御工学など、さまざまな専門分野を学ぶことができます。また、基礎研究はすごく大事なのですが、私自身は基礎研究で得た理論を応用し、製品として社会に届けていくことに興味があります。その点でも、物理情報工学科に進むメリットが大きいと考えました。物理情報工学科には、さまざまな分野の企業や研究機関などの方々からお話を聞く「物理情報工学特別講義」という授業があり、大学卒業後の進路について考える良い機会になります。また、プレゼンテーションの授業があり、人にわかりやすく伝える技術を習得し、研究発表の練習をできることも利点だと思います。

研究室に所属する学部4年次以降の学びについて教えてください。

いくつかの研究室を見学し、「安藤研究室」に所属することを決めました。研究テーマが魅力的だったのはもちろんですが、先生の助けを借りながら大学院生や学部生が自主的に研究を進めているイメージが強かったことも好印象でした。自分たちで工夫しながら研究を進めていく姿勢が、高校時代の野球部の思い出とも重なったのかもしれませんね。実際に研究室に配属されて感じたのは、まだ教科書に載っていないような新たな領域と向き合う楽しさです。高校、大学と積み重ねてきたインプットが、研究を通じてひとつのアウトプットになっていく。その感覚は、研究室に入って初めて経験したものでした。大学院進学を決めたのは、こうした最先端の研究をもっと深く、長く味わいたかったからです。

答えの見えない問いと向き合い
一歩一歩進んでゆく
研究生活が教えてくれたこと。

現在の研究テーマを教えてください。

酸化銅を用いたスピントルク生成に関する研究を行っています。磁性体の磁化の向きを高速に、省エネルギーで制御することができるスピントルクは、情報を記憶するメモリなどへの応用で注目されています。ただ、一般に、高い効率のスピントルク生成には白金のようなレアメタル材料が必要不可欠であると考えられていました。私の研究グループでは昨年、比較的安価な材料である銅を自然酸化させることで、白金に優るスピントルク生成効率が実現することを発見しました。私はこの研究をさらに深めるために、酸化銅においてスピントルクが生成される物理的なメカニズムの解明を目指しています。この研究は今までになかった新たな理論の構築や、さらなる学問の発展につながっていくと考えています。

研究室で思い出に残っているエピソードを教えてください。

ある日、研究室の先輩が行っていた実験で、作成した試料に誤って銅が混入してしまったことがありました。この試料の測定結果は時間が経つと通常とは異なる結果になりました。再現性の無いデータは信頼性に欠けるため、これは誰が見ても明らかな実験失敗でした。ただ、なぜ時間が経つと実験結果が変わったのかを考えてみたところ、銅が大気中の酸素によって自然酸化されたのではないかという仮説に至りました。つまり、失敗から生まれた実験が、酸化銅の新たな性質の発見につながったのです。科学の世界では、実験の失敗などから偶然生まれた新たな発見のことを「セレンディピティ」と呼びますが、まさしくそれを目の当たりにした面白い体験でした。学べば学ぶほどわからないことがでてくるのが物理。それが学問の面白いことだと思います。新しい発見は、それを追求していくことで辿り着けるもの。興味がある限り、続けていくことが大切なのだと思います。

今後の目標や将来の進路について教えてください。

現在の研究を英語の論文にまとめ、国際論文に投稿することを目指しています。また、自分が研究したテーマを製品に組み込み、社会に送り出すことができれば最高ですね。後期博士課程に進んで研究を続けるか、電子機器を扱うメーカーに就職するのか。将来については、両方の可能性を視野に入れて考えています。ただ、どの道でどんなテーマを扱うにしても、研究というプロセス自体を楽しんでいきたいと思います。一つひとつ課題を克服し、真理を追求していく……。研究を行う過程で学んだ多くのことは、これからの私の人生にとって大きな財産になると思います。

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