数学教師だった父の影響で理数系に興味を持つ一方で、「数学的アプローチで社会に貢献する道」を模索。
理工学部で幅広い知識を学ぶ間に、まさに思い描いた通りの学問・金融工学と出会い、その知識を活かした資産運用会社への入社を決めました。
【※】インタビュー時点(2017年11月)の在籍学年です。
中学生の頃から走ることが得意だったので、高校では陸上部に所属し、練習漬けの毎日でした。種目は短距離走とリレー。長野県大会で5位に入賞したこともあります。また、陸上部OBと学生が主体となって実施する地元小学生対象の陸上教室にも参加していました。当時は何かを学ぶため、という意識ではありませんでしたが、今思えば運動経験は自分にとってのひとつの軸になっている気もします。
文武両道を目指して、定期テストでは常に学年10位以内を目指していました。高校は生徒の自主性を重んじる風潮がありましたが、それは逆に言えば自主的にやらなくてはならないということ。そのため授業と部活の間の隙間時間などに自習室を利用して少しずつ勉強をしていました。さらに部活引退後は、遅れを埋められるように朝から晩まで勉強していました。そこで気持ちの切り替えで苦労はしましたので、ランニングなど少しだけでも運動を続けていても良かったかなとは思っています。
父が数学教師だったため、もともと理数系科目が好きでした。ただ、将来の具体的な目標までは決まっていませんでしたから、入学後に学科を選べる大学という点がひとつの基準になりました。本質を知らないままで人生が決まってしまうと後悔があるはず。だから明確な目標が見えてから、はじめて腰を据えて学べる環境が魅力だったのです。
また、進路を調べているうちに、数学的な素養を活かして社会の問題にアプローチするという学問があることを知りました。漠然とではありますが、そのような研究をしたいという思いもあり、その選択肢がある慶應義塾大学を選びました。
「学門2」に入学し、最初は幅広い分野の知識を学びました。しかし、この段階ではまだ将来を決める必要がありません。何がしたいのか、何ができるのかを見極めながら、さまざまなことを吸収する時期だったと思います。その先、進む選択肢は大きく2つありました。数学という学問自体を究める数理科学科と、数学を道具にして問題解決を図る管理工学科があり、そこで入学前の気持ちのまま、管理工学科を選びました。 工場の生産管理や企業経営、人工知能など、数理的な知識を直接社会に活かす学問は数多くあります。共通するのは、ひたすら数字や数式と向き合う数学と違い、さまざまな周辺学問を幅広く学ぶ必要があることです。コミュニケーション能力も求められるので、難しいけれどやりがいのある学問だと思います。
学部3年次に履修した「管理工学実験・演習Ⅰ」の「インダストリアル・エンジニアリング」です。これは遊具を分解し、再度組み立てるという工程をいかに効率化するか考える実験です。組み立てる人員は何名、解体するのは何名、道具の運搬に何名といった配分をして実際に作業をしながら、分析・改善していきます。この授業の以前にもIE(インダストリアル・エンジニアリング)の座学があったのですが、実際に作業することで知識が実感として身についたことが成果だと思います。この実験に限らず、理工学部には実験、演習の時間が数多く設けられています。学ぶ分野は幅広いのですが、それぞれを演習で体験できるため、より本質的に理解できることが特徴だと思います。
講義の起業体験プログラムの一環として、模擬店を学園祭で出店しました。過去の模擬店の収益データを分析して、揚げアイス屋さんを選びました。アイスだから暑い日でも良いし、揚げていて温かいから肌寒くても良い。気候にあまり左右されない点が選択理由のひとつです。座学で身につけた事業戦略、マーケティング、財務会計などの知識を、現実に活かしたこの経験は、ただ出店するだけではなく、企業として営業活動を行うことで、必要な知識とマインドを身につけることができたと思います。もちろん「楽しかった」という収穫もあります。
学部時代のさまざまな経験から、最終的に決めた研究分野は金融工学でした。これは、確率統計やOR(オペレーションズ・リサーチ)、最適化などの数学的、工学的知識をベースとして、金融を分析する学問です。さらに、市場という流動的なものが相手ですので、心理学や経済学など、さらに幅広い知識が必要となります。管理工学科は他学科と比べて必修科目が少なく、興味のある分野を選択して追求できる時間的余裕があります。そこで自分の興味ある分野を集中的に学べたことが、この金融工学という研究テーマの決定に至った一因だと思っています。
金融のデータというものは綺麗なデータではなく、多くのノイズが含まれています。そのノイズを含むデータを統計的に処理し、最適化することが苦労でもあり、楽しさでもあります。
また、金融工学は比較的、実社会と近い学問でもあります。大学ではアカデミックな厳密性ばかり求めてしまいがちですが、社会では資産運用の実現性や利便性、それがお客様にどう伝わるかなどの視点も必要です。学会にも学者ではなく実務家の方が多く、より現実的な考えが求められます。つまり、それだけ実践的な知識が身につけられるということです。実際、資産運用会社と連携して開発した投資信託の金融商品が販売されたこともあります。これは大きな励みになりました。
投資信託などの運用計画を作る資産運用会社への入社を決めました。業務は現在の研究テーマの延長にあり、まさに自分が望んだ通りの進路です。 近年は低金利の環境が続き、預貯金では十分な資産形成が難しい時代。個人での資産運用はニーズを増すことでしょう。その元となる金融工学は今後ますます重要になる学問です。しかし、国内には研究室が非常に少なく、専門でやっているところは10もないくらいです。そのなかで慶應義塾大学には理工学部に2つの金融工学研究室があります。さらに経済学部にもいくつかあります。つまり、慶應義塾大学は金融工学研究の日本における最先端であり、金融工学を学ぶにあたり、これほど良い環境はないと思います。