塾員来往執筆の話を頂いたこと、大変光栄に思います。この場をお借りして関係者の皆様に感謝申し上げます。私は、環境省の技術系行政官(サイエンスの知識を生かして、法律や制度をつくる立場)として、日々、環境問題解決に向け取り組んでおります。ここに、私の学生時代、社会人生活を書くことで、学生の皆さんの今後の進路決定に、少しでもお役に立てれば幸いです。
もともとは医学部志望でした。1浪してまでがんばったのですが、結局医学部は受からず、ぎりぎり受かった理工学部へ入学させていただきました。そのため、当初は慶應義塾大学理工学部で何をしたら良いのか分からず、目的を失い、なんとなくの学生生活がスタートしました。
最初は勉強よりも、サークルや友達と遊ぶことに夢中でした。(「バスケットボール」と「ロックバンド」のサークルに所属)。2年生の夏休みには、スタンフォード大学に短期留学させていただきました。スタンフォードの優秀な学生と、天国のような素敵なキャンパスで一緒に過ごせたのは最高の思い出です。
サークルや留学をする傍ら、大学の授業で「量子力学」という学問に出会いました。万有引力の法則などの高校で習う「古典力学」とは異なり、「量子力学」から導き出される数々の法則は、日常感覚では受け入れがたい不思議な法則ばかりで、ファンタジーを読んでいるように心を奪われました。例えば、観察者が観察することで物理現象が創られる(まるで人間が創造者のようだ!)とか、量子テレポーテーション(量子が瞬間移動!)とか、世界が重ね合わされている(多世界解釈!)など、SFかと思うようなことがまじめな学問になっていて、最新の科学のおもしろさに夢中になりました。
一方で、小学校の教科書に出ていた「オゾン層破壊」がとても衝撃的で、「科学を勉強して、環境問題を解決したい!」という純粋な思いをかつては持っていたことを思い出しました。医者になりたいと思っていたのは、少し大人になり「理系で勉強できる人=医者」と考えて、ただ格好をつけていただけであり、私が本来やりたかったことは、「環境問題解決」だと気づきました。
バンドサークルの仲間と
バンドでの私の様子
スタンフォード大学の短期留学(1ヶ月)
大学4年生から研究室に配属されます。夢中になった「量子力学」を活かせば、環境問題にブレイクスルーを起こす、すばらしい技術ができるんじゃないかと思い、「量子テレポーテーション」を研究する「神成研究室」に入れてもらいました。
量子力学の理論を、レーザと光ファイバーを使って現実に現象を体験することができ、学問的にとても楽しかったです。しかしながら、それ以上にすばらしかったのは、神成先生の熱い御指導です。「大学生になってもこんなに親身になって指導してくれる先生がいるのか!」と思うくらい熱心に御指導をいただきました。神成先生に出会えたのは生涯の宝です。研究室で学んだ、コミュニケーション力、チームとしての課題へのチャレンジ力、問題解決力など、今の社会人生活の基礎となっています。
「環境問題を解決したい」という当初の志から、仕事もそれにつながるものをしたいと思っていました。当初は、量子力学を活用して環境問題解決にブレイクスルーを起こすため、研究をする道を考えました。一方で、電気自動車など環境に優しい技術はすでに多くあり、それを社会に浸透させる技術系行政官として環境省で働く道があることを知りました。1つのことを研究するよりは、いろんな人とコミュニケーションしながら仕事する方が自分に向いていると考え、最終的に環境省を志すに至りました。
今年3月のOECDの会議の出席
環境省は、法律によって「地球環境保全、公害の防止、自然環境の保護、その他の環境の保全等の確保」を任務としている組織です。私はその中で、技術系の行政官として、みんなが安全で豊かな暮らしができる、より自然と調和した文明社会を目指して、日々仕事に取り組んでおります。これまでに、エコカーの普及促進、土壌汚染対策、PM2.5に代表される大気汚染対策など、科学の知識を存分に活用しながら行政の仕事に取り組んでいます。
その中でも、とても思い入れのある仕事の1つが、放射性物質により汚染されてしまった福島県の復興に向けたお仕事です。福島の現地でも約2年働きました。福島では、住民説明会を通して、住民の方々との意見交換や、除染事業を行うべく、ゼネコンに業務を発注し、その監督指導なども行いました。そのとき、神成研究室から、サプライズで応援メッセージが職場に届き、とても感激しました。改めて、慶應義塾大学、そして神成研究室に出会えてよかったと思えた瞬間でした。
今年の3月には、フランスのパリのOECDで、日本の化学物質管理や大気汚染対策の取り組みについてプレゼンを行いました。5月にはG7環境大臣会合の準備に一部参画させていただき、9月~10月にはシンガポールと中国で講演も行い、最近は国際社会で活躍する機会も多くなってきました。
休日は、2児(4歳娘、2歳息子)の父親として、庭でBBQやプールなど、子供たちと遊んでいます。時折、趣味のランニング、ヨガも楽しんでいます。今後はトレイルランに挑戦したいと思っています!
今の自分があるのは、慶應義塾大学理工学部で出会ったすべての方々のおかげだと思っており、今でも大変感謝しています。感謝の気持ちを表すためにも、みんなが安全で豊かな暮らしができる、より自然と調和した文明社会を目指して、引き続き楽しくがんばっていきたいと思っております。
ここで書いたことが、学生の皆様のさらなる充実した人生の一助となれば幸いです。最後まで読んでくださりありがとうございました。
百瀬 嘉則(ももせ よしのり)
(静岡県立清水東高等学校(理数科) 出身)
2006年3月
慶應義塾大学理工学部電子工学科 卒業
2008年3月
慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻修士課程 修了
2008年4月
環境省 入省
自動車環境対策課 係員(エコカーの普及等)
2010年4月
土壌環境課 係員(2011年4月~ 係長)
(土壌汚染対策法の施行等)
2011年9月
除染チーム 併任
(福島第一原発事故による放射性物質汚染の対策等)
2012年6月
福島環境再生事務所 係長
(福島第一原発事故による放射性物質汚染の対策等)
2014年7月
水・大気環境局総務課 環境基準係 係長(2015年7月~ 課長補佐)
(PM2.5などの大気環境基準の策定・見直し)
2015年9月
大気環境生活室 室長補佐 併任
(風車騒音問題など)
2016年4月
化学物質審査室 室長補佐
(化学物質審査規制法の施行等)