新板 窮理図解
幼い頃から、自然の中で遊ぶことが好きで、探究心が旺盛だったという田中さん。
ただ、幼い頃は、研究者になろうとは夢にも思わなかった。
運命を変えたのは、管理工学の研究分野との出会いだった。
社会の複雑な事象についてモデルを構築して課題解決を目指すアプローチは、
現実問題への具体的提案を行う工学的迫力と、
自然現象をシンプルな法則で記述する物理学にも通じる
理学的な面白さを兼ね備えた魅力があるという。

どんな幼少期を過ごされたのですか?
 東京都武蔵野市の出身で、自宅から数キロの範囲に、野川公園や小金井公園、井の頭公園などがありました。また、父が、休日や夏休みに車で山梨県や長野県など自然豊かな場所へ連れていってくれたこともあり、屋外で遊ぶのが好きでした。よく友達と昆虫採集をしていました。なかでもクワガタが好きでした。海へ行っても、泳ぐよりも、潮溜まりで魚やカニを観察するのに夢中になっていた記憶があります。また、天体や星座にも興味があって、小学生の頃は星座や星雲の名前を図鑑で調べて覚えたり、超新星爆発やブラックホールなどについて書かれた本を読んで驚いたり。宇宙の果てがどうなっているのかを考えて、眠れなくなったこともあります(笑)。というわけで、小中学校を通じて自然科学に興味を持っていた子どもでした。
 一方、父が音響関係のエンジニアだったことと、母がクラシック音楽好きだった影響もあり、幼い頃からピアノを習っていました。中学時代には、音楽学校への進学を目指して、音大の先生に師事していたこともあります。当時は、1日6時間くらいピアノを弾いていたんですよ。ただ、いろいろと迷った結果、ピアノは途中で辞めてしまいました。残念ながら、いまはピアノから遠ざかっていますが、いつか趣味として再開したいと思っています。
 そうしたわけで、高校は地元の都立高校に進学しました。数学の面白さに目覚めたのは、この頃です。とくに曲線に囲まれた領域の面積が積分という操作で求められることを知ったときは、本当に驚きました。数学を魅力的な学問だと感じた瞬間です。いまから振り返ると、自然科学や数学の面白さを知覚する感性はもっていたのだと思います。だからといってこれらの成績が良かった訳ではありませんでしたが(笑)。

photoそれで大学は、生物系ではなく、理工系へ進まれたのですか?
 そうですね。当時はまだ、特定の学問分野に強いこだわりはありませんでした。慶應義塾大学理工学部は、大学2年生のときから学科に所属するシステムになっているのですが、管理工学科へ進んだのは、人間や都市、社会などの多様な領域をカバーしていてなんとなく面白そうだと思ったからです。実際の講義がはじまると、社会の課題や人間の行動といった、複雑でやわらかい対象を数学的に表現し、背後にある構造を明らかにするというアプローチに面白さを感じました。当時は物理に興味があって、シンプルな法則で世界を記述できるところに魅力を感じていましたが、実社会の問題にも同じようなアプローチが可能なのだと、授業を受けてみてはじめて実感した部分が大きく、運が良かったと思います。