新板 窮理図解

で、東京大学に入学された後は、3年から物理学科に進学されたわけですね。
photo ええ。まわりにとても優秀な人たちが多くて、ともに勉強できることに幸せを感じていました。一方で、自分がこの世界でプロとして生き残るためには、優秀な友人と同じことをしていてはダメだ、とつねに感じていました。
 そこで大学院では、多くの人が素粒子や宇宙物理を専攻するなかで、私はデバイス物理を研究しようと、今は柏にある東大の物性研究所に進学しました。さらに、ポスドクはスイス連邦工科大学に留学するといった具合で、できるだけ独自の道を進むようにしてきました。幸い、私の興味のある分野がレーザー光を用いた物質科学研究だったので、世界のどこででも活躍できる土壌がありました。
 じつは学科を選択する際に「物理学科」にするか「応用物理学科」にするかで迷ったんですね。というのは、「実社会への応用に根ざした学問に進みたい」と感じていたからです。しかし「根源を知りたい」という思いもあったので、あれこれ迷ったあと、最終的には物理学科に進学することにしました。そうした中で、「光学」と出会いました。特に光の波動性を活用したホログラフィーの発明によりノーベル物理学賞を受賞したガボール(Dennis Gabor)の研究に触れ、自分もこういう研究者になりたいという思いから、光科学に進むことにしました。
 物性研究所では、秋山英文先生のもとで半導体レーザー構造の基礎物理について研究しました。大学院時代に培った「ものをじっくり考える力」は現在も役立っており、秋山先生にはたいへん感謝しています。
 スイスに行ったのは、計測だけでなく、「ものづくり」も学ばなければならないと考えたためです。カポン(Eli Kapon)先生のもとで、半導体量子デバイス構造作製の仕事に携わりました。世界最高品質の量子ドットの作製に携わることができ、世界各国の個性的なポスドク仲間と一緒に研究できたことは楽しい思い出です。海外へ出たことで、外国人とのコミュニケーションに恐怖心を感じなくなったことも大きな収穫でした(笑)。とくに海外では、自己主張をすることが大事だということを学びました。
 その後は助教として東京大学大学院の島野亮先生の研究室で、現在の研究につながる「テラヘルツ電磁波を用いた物性研究」を手掛けました。当時はまだ新しい研究分野で手探りの状況でしたが、そのおかげでさまざまな計測技術の基礎を学びながら、世界に類を見ない計測装置を開発することができました。
 こうした経験から、「光計測」と「サンプル作製」の両方において、世界一の技術をもつ研究室で経験を積むことができたというのが、私の研究者としての大きな強みになっています。

研究者として進む方向を決め、研究テーマを探すというのは容易ではありませんね。
 研究者の世界は競争が激しいため、今でも、どうすれば生き残れるかを必死に考えています。そういう意味で、「今はやり」といわれている研究はやりたくない。「はやり」に飛びつくと、結局、自分がこの世界で何を残したのか不明確になってしまいます。もっとも、「テラヘルツ光」は「はやり」の分野なので矛盾しますが、自分なりの切り口でオリジナルな研究をしているつもりです。一方で、自分の興味に走りすぎて、まったく「はやり」ではない分野に進んでしまうと研究資金を集めるのが大変になったりもしますので、このあたりの「さじ加減」にはいつも苦心しています。
 ちなみに、慶應義塾大学物理学科の4年生の必修科目に「論文講読発表」という、古今東西の英語原著論文を読んで解説するという授業があります。その中で過去の有名な研究者がどういう戦略で自分の学問領域を切り拓いてきたのかを、学生と一緒に学んでいます。研究に必要な「新しい発想」を生むためには、過去の人間の努力の足跡を学ぶことが一番の近道です。過去の偉人の戦略に学び、世界中の人をあっと驚かせる研究成果を出せるように日々努力しているところです。