慶應義塾大学理工学部 広報誌
  新版 窮理図解  
10 能崎幸雄 突き詰めることで面白さが見えてくる

高校時代は物理より化学の方が好きだったという能崎さん。
恩師である宮島先生に師事し、大学時代の友人や海外の研究者らとの交流を通して、
物理の面白さに目覚めたという。
しかも、教壇に立って教えることで分かってくる物理の奥深さにも改めて気付かされ、物理への関心は深まるばかりだ。そんな能崎さんを学生たちは厳しくも優しい先生と慕う。

 

1 仕組みを知りたくてカメラを分解してしまう

photo子どもの頃、好きな遊びや熱中していたことがありますか?
 母に言わせると、ものを分解するのが好きな子どもだったみたいです。わが家は両親が自営業をしていたので留守がちで、1人っ子ということもあり、1人で遊ぶことがほとんどでした。そんなある日、母が仕事から帰ってみたら私がカメラを分解して遊んでいたというのです。
 今思えば、私はカメラを分解したかったのではなく、その仕組みを知りたかっただけだと思います。カメラの中にどんな仕掛けがあって写真を撮れるのか。そして、シャッターボタンを押すと音がするのはどんな仕組みによるのか。そんなことを不思議に思い、疑問を感じていたことを覚えています。おそらくカメラの内部を見ようと裏ぶたを開け閉めするうちに何かが取れたか壊れたかして分解が始まり、母が帰ってくる頃にはネジや部品になっていたんでしょう。ひどく怒られましたね。
 それでも似たようなことは何度もやっていた、と母から聞かされています。他にも何かのお祝いに、庭に置いて遊ぶブランコを祖母が買ってくれたのですが、遊ぶ前にバラバラにしてしまったらしいんです。どうして動くのか、その仕組みを知りたいという気持ちを我慢しきれなかったみたいです。
 そんなこともあって、母は私のことを理系向きだと思っていたようです。そしてそれ以後は、何かを壊されるよりはとプラモデルを与えられるようになり、壊すだけでなく、作る方にも興味を持つようになりました。

学校の勉強も理系が好きだったのですか?
 どうでしょうか。理系が好きというよりは文系に対する苦手意識が先にあったように思います。その場で考えれば答えが出る算数とか理科は好きでしたが、暗記ものなど、日々の地道な勉強が必要な科目は苦手でした。漢字の書き取りなどは全滅でした。それでも中学くらいまでは試験前の一夜漬けでなんとかなりましたが、高校になるとそれも通用しなくなり、文系科目を遠ざけ、数学や化学といった理系科目に傾倒していきました。ただ、物理だけは別でした。仮想的な問題ばかり解かされて現実感がないというか、その本質的な面白さがあまり分からなかったのです。
 例えば、力学ではボールをスロープに置いて転がしたとき、その先にある上り坂をボールはどこまで上れるかといった問題が出ます。しかし高校時代の私には、それが何の役に立つのか実感できませんでした。机上の空論というか、想像上のスロープに想像上のボールを置き、それがどう動くかということに興味を持てなかったんです。また、電磁気学では、離れた物質間に力を及ぼす面白い現象が出てきたにもかかわらず、それを引き起こす磁場や電場の本質を説明されることはありませんでした。
 それに比べて化学は、化学式で記述した通りに薬品を組み合わせると目の前で化学式通りの反応を再現することができます。化学の方がリアルというか、当時の私には面白く思えたのです。

 

 

1 仕組みを知りたくて カメラを分解してしまう
2 恩師の授業で物理の楽しさを知る
3 迷いがある時こそ集中すること
Profile 能崎幸雄 物理学科 准教授
専門はスピンダイナミクス、スピンエレクトロニクス。現在の研究テーマは、強磁性金属中において電子系やフォノン系と強く結合するスピン角運動量のダイナミクスの制御。基礎研究から実用を想定した応用研究まで幅広く展開している。1998年、博士(理学)を取得後に九州大学大学院システム情報科学研究院助手となり、2006年同大学准教授に就任。2010年に慶應義塾大学理工学部准教授に就任。現在に至る。
 
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