慶應義塾大学理工学部 広報誌
  新版 窮理図解  
07 早瀬潤子 2 新しい成果を求めて研究者に

研究者になろうと思われたのは、いつ頃ですか?
 大学4年のときです。着任されてまだ2年目の江馬一弘先生の研究室に入ることにしたのですが、研究室では、超短光パルスを使った非線形分光という、世界でも最先端の研究を手掛けていました。大学3年生までは、答えの用意されている理論や実験について学びましたが、研究室では、世界でまだ誰もやっていないような実験を自分たちでやり、次々に新しい結果を出すことができました。研究室自体はできて2年目ということもあり、設備を整えたり、ルールを決めたり、装置を作ったりといろいろ大変でしたが、それだけ、やりがいもあり、非常に充実していましたね。研究室に泊まって、夜通し実験するということもよくありましたが、全く苦になりませんでした。一度集中すると、とことんやらないと気がすまないんです。
 そうした環境に身を置いたことで、たんなる憧れから、研究者になりたいという思いが強くなっていったのだと思います。一見、私はおっとりしていると言われるのですが、結構、頑固者らしく、一度こうと決めたら譲らない性格なんですね(笑)。「大学を卒業したら就職して、いい人を見つけて結婚すればいい」という親の意見には全く耳をかさず、大学院の博士課程まで進むことにしました。

高校、大学と、先生との出会いが転機になっているんですね。
 現在、私自身が研究室を主宰し、学生を指導する立場になってみて初めて、江馬先生から学んだことが非常に役に立っていると感じます。よく考えてみると、私は江馬先生から怒られた記憶がほとんどないのです。学生のいいところを褒めて、本人のやる気を引き出すような助言や課題を与えることで、それぞれの成長を促すというやり方は、今の私のお手本になっています。
 博士号を取得した後は、アカデミック研究者を目指して、理化学研究所に入所しました。今でいうポスドクの立場で、3年の任期付き。自分で研究テーマを提案する形式の応募で、運良く採用されました。今の研究とは少し違うのですが、光と半導体ナノ構造を扱うという意味では同じような分野の研究です。任期終了後は、情報通信研究機構(NICT)に移り、そこで量子ドットと出合いました。ちょうどNICTには特徴的な量子ドットを作っている研究部隊がいて、面白そうだと思ったのがきっかけでした。ここに4年半くらい在籍したのですが、NICTの場合も、自分で就職活動をして得た職でした。私たちアカデミックの世界では、博士号をとって、すぐに任期のない安定的な職につけるわけではないんですね。
 そんなわけで、研究資金を獲得するため、また安定的な研究環境を探すためにあちこちに応募をしていたのですが、NICTに在籍中、運良く15倍の高い倍率をくぐり抜け、科学技術振興機構(JST)の個人型研究を対象とする競争的研究資金制度「さきがけ」に採択されることになりました。「さきがけ」に採択されて良かったのは、採択された研究者や審査側のアドバイザーが一堂に会して、半年に一度、合宿で議論を戦わせる場があったこと。そこで研究の進捗について発表するのですが、厳しい意見を含め、非常にレベルの高い意見や助言をもらえることで、成長できたと思います。合宿形式なので、議論するだけでなく、夜は夜でざっくばらんに将来について語り合い、気付いたら夜中の2時、3時ということもよくありました。この世界では、人と人とのつながりがとても大事なので、「さきがけ」で知り合った同世代の仲間は、かけがえのない大きな財産になりました。
photo「さきがけ」がステップアップのきっかけとなり、その後、テニュア・トラック制度(若手研究者が、任期付きの雇用形態で自立した研究者としての経験を積み、厳格な審査を経て安定的な職を得る仕組み)を利用して電気通信大学の教員になりました。そしてようやく昨年、縁あって慶應義塾大学に着任し安定的な職を得ることができました。今から思えば、任期付きのポスドクという立場は不安定ではあったけれど、研究に没頭できるし、とても良い経験だったなあと思います。今は、学部生と院生計6名を抱える研究室を運営していく側になり、責任の重さと、大きなやりがいを感じています。

つねにご自身の手で、道を切り拓いてこられたんですね。
 はた目で見ると、計画的にバリバリやってきたように見えるかもしれませんが、その場その場で、ただ好きなことを続けてきただけなのです。今後は、せっかく任期のない職についたのですから、時間のかかるチャレンジングな研究にも取り組んでいきたいですね。

 

 

1 高校の物理の先生との出会いが転機
2 新しい成果を求めて研究者に
3 女性を意識したことなく自然体で
Profile 早瀬潤子 物理情報工学科 専門分野は量子光エレクトロニクス。特に超短光パルスを用いた半導体ナノ構造の光物性、量子制御、量子情報応用に関する研究に従事。2001年上智大学にて博士(理学)を取得後、(独)理化学研究所基礎科学特別研究員、(独)情報通信研究機構専攻研究員、(独)科学技術振興機構さきがけ研究者、電気通信大学先端領域教育研究センター特任助教を経て、2010年慶應義塾大学理工学部准教授、現在に至る。2009年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞。
 
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