慶應義塾大学理工学部 広報誌
  新版 窮理図解  
06 髙橋正樹 2 恩師の講義が意識を大きく変えた

慶應義塾大学理工学部のシステムデザイン工学科に進学されたのですね。
 ええ、実はシステムデザイン工学科の1期生です。新設されたばかりのこの学科を選んだきっかけは、システムデザイン工学科の理念にあったように思います。学科パンフレットには、「これからの社会に対応できるシステムを作るには機械系と電気系の双方の知識が必要になるし、システムの設計、解析、評価を考えることができる人材の育成を目指している」と書かれていました。こうした、いくつかの知識を組み合わせて全体をデザインするという発想に出合ったとき、素直にそうだなと思えたからです。あと、デザインという言葉の響きにかっこよさを感じていたことも少しは関係あるかもしれません。
 入学当時は新設学科ということもあり、すべてが整っているわけではありませんでした。しかしそれを補って余りある先生方の熱意と創意工夫に満ちた講義が、私たち学生の好奇心を満たしていました。特に力学と制御工学の講義は私の意識を大きく変えました。講義を担当されていたのが私の恩師でもある吉田和夫先生だったのですが、高校時代に学んだ数学や物理、これから学ぶ力学の法則が、単なる数式ではなく人や社会の役に立つ道具として使えるし、多くの現場で活用されているということを、分かりやすく説明してくださったのです。
 例えば、海峡に架かる橋を風雨から守り、建物を地震で崩壊しないようにするための制御技術がありますが、そのためには橋や建物のモデルが必要で、これらは高校の物理で習った公式をベースに発展させたものであることを吉田先生が話され、ハッとさせられたことを今でも鮮明に覚えています。高校時代にパズル的な面白さを感じながら何気なく解いていた物理が、橋やビルを作り出す基盤となっていることに改めて気付かされたのです。
 問題を解くことにだけに関心があった数学や物理が、実は私たちの日常生活に深く関わっていることに驚くとともに、物理の新たな一面を垣間見ることができ、もっと知りたいと思うようになったのもこの体験がきっかけでした。

吉田先生の講義が物理の印象を大きく変えたのですね。
 最初の講義で吉田先生は、アメリカのワシントン州の海峡に架かるタコマナローズ橋の映像を見せてくださいました。この橋は、架橋後間もなく、想定した耐用範囲内の強風にあおられて落橋したのですが、その様子が鮮明な記録映像として残されていることでも有名なので知っている方も多いと思います。力学や制御のもつ役割を強く意識した瞬間でした。
 そのときの印象が強かったこともあって、3年生の秋に研究室を決めるときも吉田研究室を訪ね、見学後に先生のもとで勉強しようと決めました。講義中の先生は優しく、分かりやすい解説を心がけてくださるのですが、研究となると非常に厳しく、随所で的確な指摘が入ります。学生を指導する立場となった今、そうした姿勢も見習いたいのですが、難しさを実感し、日々格闘しています。
photo 吉田先生には、日頃から“まずは現場に行って現状を確かめなさい”といわれていました。思い込みから自分を解放し、偏見のない目で現状を確認することで問題の本質が見えてくるというのです。実際には見ろといわれてもなかなか問題の本質を見ることは難しいのですが、案内・搬送ロボットの研究をする時も実際の現場での試験を繰り返し行い、利用者やそれを見ている人たちから積極的に話を聞くようにしています。また、私1人ではなく企業の方や研究室の学生と一緒に出向き、ディスカッションすることで、研究室では見えなかった問題に気付いたり、別の要望が生まれてくるなど、さまざまな波及効果を得ることができます。
 残念ながら2008年に吉田先生は他界され、もうお話をうかがうこともかないません。今は先生の言葉を頼りに少しでも近づけるように日々努力を積み重ねているところです。

 

 

1 大学に入って 力学・制御工学に関心を持つ
2 恩師の講義が意識を大きく変えた
3 外部との関わりを重視して 学生を指導する
Profile 橋正樹 システムデザイン工学科 専任講師 専門は制御工学、知的制御工学。モデルベース制御をベースに、機械・力学制御、知能ロボティクス、宇宙工学分野での研究に取り組む。2004年、慶應義塾大学理工学研究科にて博士(工学)を取得。2004年に慶應義塾大学特別研究助手、2005年に慶應義塾大学理工学部助手、2007年に助教を経て、2009年より専任講師、現在に至る。
 
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