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学問のすゝめ

ドレッシングな友達

藤谷 洋平 (物理情報工学科 教授)

 僕はここ二年ほど、相分離臨界点近くの二成分流体一様相とつきあっています。

 たとえば、アニリンとヘキサンを大匙一杯ずつ混ぜ合わせると二成分流体のできあがりです。できた流体は常温常圧で二相に分かれて相分離しています。ドレッシングで、そんなのがありますよね。でも、もちろんサラダにふりかけてはいけません。ひとつの相ではアニリンがほとんどで、もう一つの相では逆です。ボトルを振って混ぜても一様にはなりません。ところが、すこしあっためていくと、ある温度以上で、二つの相がひとりでに混ざって一様濃度になります。これが一様相です。つまり、温度を上げていくと、二相が一相に相転移するわけです。ドレッシングでは、こんな風にならないでしょう。

 上で考えたのは大匙一杯ずつでしたが、この成分比をうまくあわせて温度を上げると、相分離臨界点という特別な状態を通って相転移します。この付近では成分濃度のゆらぎが大きく、流体は刺激に敏感になります。人間も心に揺らぎがあると喜怒哀楽が激しくなりますよね。それと同じで、とても人間的です。これで、相分離臨界点近くの二成分流体一様相が友達みたいになってきましたね。シャイなやつなんです。臨界点を通らないときはいきなり相転移して鈍感なままです。こんなのは友達ではありません。アニリン・ヘキサン系以外の友達が気を悪くするから、A成分・B成分と呼ぶことにします。

 この流体のなかにミクロンサイズの球状粒子をひとつぶ入れましょう。それくらい友達だから許してくれるでしょう。粒子の表面というやつは好き嫌いがあって、A成分のほうがB成分より好きだとかわがまま言うのです。流体のやつは、年ごろで刺激に敏感になっていやがるので、ちやほやされたA成分が粒子周りを厚く取り囲むのです。そうすると、そんな厚いとりまきがないときに比べて、粒子が動くときに流体から受ける力が変わってきます。着ぶくれしていると満員電車から降りるとき苦労しますよね。あれとおなじです。いや本当はちがいます。濃度勾配に由来する浸透圧がかかわってきます。

 似た状況をいろいろ考えて、入れたものが動くときに受ける力がどうなるかを、できるだけ手で計算しています。満員電車予想に反する結果もあって結構楽しめます。手計算しているのは、結局のところ昔からそれが大好きだからです。あれやこれやと目についたものを手計算してきました。そう、とれそうなトンボを追いかけて、とったりとりそこねたりしながら、ついつい歳を重ねてきてしまいました。もう陽は傾いて心細くなってきたけれど、少年老い易く…は、少年の心は老い易く、だと思い直して、あいもかわらずトンボを追いかけています。まあ、ちょっぴりだけど腕もあがってる気がするので。

 しーっ。こんどのは少し大きいみたいだから。

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