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学問のすゝめ

機械を産み出す母なる機械:マザーマシン

柿沼 康弘 (システムデザイン工学科 准教授)

1.日本のものづくりを支える基盤技術 -精度と能率を追求した最高の機械-
 読者の皆さん、工作機械をご存じでしょうか?自動車や航空機、カメラや時計、そして今、皆さんが手にしているスマホまで日本が誇るものづくりを陰で支えてきた機械それが工作機械です。工作機械は、読んで字のごとく「工作」する「機械」で、金属を自由な形に削り出したり、押し曲げたり、電子基板に穴を開けたり、鏡のようにピカピカに磨いたりすることが自動でできます。ものを産み出す機械であることから、母なる機械“マザーマシン”と呼ばれています。
 ここで、マザーマシン自身とマザーマシンから作り出された機械部品の精度について考えてみましょう。人間であれば、生まれた子供は両親の能力を超えて親よりも立派になることもあるでしょう。しかし、機械はそういきません。マザーマシン以上の精度で加工されることはないわけですから、産み出された機械部品達は決してマザーマシンの精度以上にはならないのです。これを「母性原理(Coping principle)」と呼びます(図1)。つまり、優れたマザーマシンがなければ、優れたモノが産まれないわけです。
 日本の工作機械技術は世界トップレベルであり、極めて高い加工精度と加工能率を実現するマザーマシンを市場に送り出してきました。その裏付けとして、日本の工作機械の生産高は20年以上も世界トップの座を維持してきました。(※2009年以降,生産額においては中国に抜かれてしまいましたが、技術力では日本とドイツが今でも牽引しています。)優れたマザーマシンに支えられ、日本のものづくり産業は飛躍的な成長を遂げたと言っても過言ではないでしょう。もし、この技術が世界トップレベルでなかったとしたら、日本の自動車産業を含むものづくり分野の成長はありえなかったでしょう。工作機械技術を含む基盤技術を世界トップレベルに維持することは、日本の将来に新しい産業を産み出す土壌を作ることに他ならないのです。

2.工作機械の精度が高い理由
 工作機械はものづくりをするロボットとして捉えることもできますが、その性能を産業用ロボットと比較してみましょう。産業用ロボットの位置決め精度はその構造から十マイクロメートルオーダが限界であるのに対して、工作機械はサブマイクロオーダで位置決めができます。工作機械の駆動部に用いるボールねじにはロストモーション(動作が反転するときに瞬間的に動きがとまること、運動精度に関わる問題の一つ)を防ぐ工夫がなされており、駆動ステージの位置とモータの回転を両方計測してフィードバック制御(フルクローズド制御)を行っているためです(図2)。また、金属を能率よく削ったり、磨いたりする時には非常に大きな力が工作機械にかかるため、機械に変形が生じます。これを最小限に抑えるため、リブなどの機械構造の最適設計や減衰の高い鋳鉄をフレーム(※実際はコラムやベッドと呼びます)に用いて高い剛性や減衰性を与えています。これに加えて熱設計や振動設計により、初めて機械部品を数マイクロメートルの精度で加工できるようになるわけです。最先端の工作機械はまさに加工学、機械工学、制御工学を結集した技術の結晶なのです。システムデザイン工学科で育った私としては、最高に魅力的な研究分野です。

 現在では、リニアモータや静圧案内など非接触駆動技術により工作機械はナノ精度のモノヅクリまで実現できるようになりました(ナノ精度の機械加工ができる工作機械を超精密加工機と呼びます)。機械加工の精度が飛躍的に高まったと実感できる身近な例として、プレモデルを挙げましょう。私が小学校の頃、プラモデルを作るためには、ニッパ、やすり、接着剤、そしてパテが必要でした。パーツを手で取り外すとバリがでるので、ニッパで切り落として、そしてやすりがけをして切り取った部分をきれいにします。次に、パーツとパーツは接着剤を使ってくっ付けるのですが、パーツ間に隙間ができてしまうので、そこをパテで穴埋めしなければなりませんでした。今のプラモデルはどうでしょう。パーツを手で切り落としてもほとんどバリがありません。パーツとパーツを組み合わせるのに、接着剤は必要ありませんし、パーツ間の隙間も見た目には全くありません。ここに工作機械の飛躍的な進歩を感じることができます。プラモデルは溶かした樹脂を”型”に流し込み、これを冷やして固めることで作っています。つまりプラモデルの精度はこの型によって決まっているのです。この型が機械加工によって作られていて、この精度が昔と今では圧倒的に違うのです。

3.マザーマシンの進化、そしてグローバルワンを目指して
 精度や能率を追求してきた工作機械は、今、更なる進化を遂げようとしています。その一つの潮流は知能化です。工作機械自身が加工状態を判断して、それに応じて安定した加工(振動や衝突の回避、適切な工具交換)を行う技術の開発が進められています。このコンセプトはもちろん、昔からあったのですが、MEMS技術、計測技術、センサ技術、制御技術の進歩により最近になり実応用が可能になってきたのです。また、機械加工プロセスの理論モデルから振動現象の解析がなされ、それを抑制する理論の体系化がなされてきたことも背景にあります。
 工作機械の知能化には理論に加えて、設計開発における現場の経験や技術者の感、そしてユーザ側の情報も大事になります。日本が培ってきた世界一の技術を更に深化させ、他国の追随を許さないグローバルワンの工作機械技術を目指すためには、まさに今、産学それぞれの強みを活かした本気の連携が必要だと感じます。そして、現場における暗黙知なども含めた新しい学問の体系化がきっと求められるはずです。
 これを読んで頂いた皆さんが、工作機械技術を含め国力の源泉である基盤技術の重要性を理解し、そしてその技術を発展させ世界一に高めていくことに、少しでも興味が湧いてくれれば幸甚です。

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